分厚く、賢い日本の不動産市場にあっさり跳ね返された「黒船」について
分厚く、賢い日本の不動産市場にあっさり跳ね返された「黒船」について
画像=写真AC
一時は日本の不動産を変えるとまで騒がれた、OYO(オヨ)が日本市場から撤退して1年以上が過ぎた。
「OYO」で検索してみると、「オーワイオー」という会社が表示されるばかり。不動産とは全く関係ない会社のようだ。OYO(オヨ)の日本法人は昨年、賃貸住宅事業「OYO LIFE(オヨライフ)」を終了し、今年3月にホテル宿泊事業は「Tabist」に名称を変更した。そのため「OYO」は完全に日本から消滅したようだ。
不動産テックの象徴的な存在で「日本市場を破壊するインドの黒船」と称されたが、2019年3月の事業開始から、2021年3月の賃貸住宅事業の事実上の終了までわずか2年弱の短い旬だった。
OYOが日本の不動産業界に持ちこんだとされる革新性とは敷金・礼金・仲介手数料は無料の賃貸住宅ビジネスだ。さらに、契約手続きはスマホだけで完結するという触れ込みで、それなりに新しい風を感じさせた。
入居者は仲介店舗を訪れることもなく、面倒な契約書類への捺印は必要なく。家具付きの快適な部屋で、極々、簡単な手続きで新生活が始められるというわけである。また、退去も簡単なもので、必要なのは物件の清掃費用だけ。日本の賃貸住宅につきものの商習慣を無視して、合理的で無駄のないビジネスモデルと喧伝された。
それは、従来の賃貸住宅ビジネスを変えるだけでなく、都市における住まい方そのものを変えるという触れ込みだった。
実際に、日本市場で本格的にビジネスを始めると、その勢いはすさまじく、事業開始から1年弱で7000室以上(首都圏)を借り上げた。一挙に他の都市に広げていき、2019年10月には大阪、京都、兵庫、名古屋でも事業を開始。社員数十人のコワーキングオフィスから、1年ほどで500名がジョインし、目標として掲げた「100万室」に向けて成長を加速させていく予定だった。
ところが、2019年末にはもう成長にブレーキがかかる。経営方向性の違いからか、2019年11月にはヤフーが経営からあっさり撤退し、利用者による物件の解約も増加。新規の物件獲得はストップし、余剰人員に対する希望退職開始される。さらには、内部体制も未熟なもので、利用者から裁判を起こされた。その利用者いわく「入居日から4日間も鍵の開け方を教えてもらえなかった」。暗礁に乗り上げた黒船はあっさりと崩壊の兆しを見せ始める。。
こうなると退潮は早いもの、入居者と最長90日間の建物一時使用目的による契約を結んでいたものが、期間を最長2年間に変更してしまう。自由に住み替えられるというコンセプトを捨てて、安定的な利益を優先するかのように見えた。もはや、一時使用目的の契約は有名無実化しており、通常の定借契約と変わらなくなる。
好意的だった業界紙も、契約形態に疑念の声を上げ始めたため、市場や当局からも厳しい目が向けられるようになったとされる。
OYOの提携仲介店(スマホだけで完結するはずなのに!)となった不動産会社の代表は「(OYOからもらえる)手数料は安いから、実際にはOYOは薦めません。『OYOありますか?』で来店したお客さんを他の賃貸物件に振るための撒き餌です」と笑っていた。
賃貸住宅業界は古いマーケットで、入居者保護が徹底されている。同時に、飽和した市場でもある。厳しい市場だ。
(文・小野悠史)