不動産ニュース取材現場のこぼれ話や感じたことを綴ります。(リビンマガジンBiz編集部)
画像=写真AC
リモートワークで在宅トラブル増加
コロナ禍のなかでリモートワークの普及が一挙に進んだ。なれないリモートワークに見切りを付けてオフィスに人が戻りつつあるが、NTTでは原則として在宅でのリモートワークを採用し、出社は出張扱いにするなど、働き方の抜本的な改革に乗り出す企業もでてきた。
生活が大きく変わったことで、自宅のあり方にも変化が出てきている。ハウスメーカーやマンションデベロッパーはワークスペースを付帯した商品を発表しているが、ここでは自宅に長くいることで生じるトラブルに目を向けてみる。
自宅にいる時間が長くなったことで、生じるトラブルに目を向けてみる。
先日、あるハウスメーカーを定年退職した60代の男性は、「自宅でテレビも観られない」と嘆く。「在宅勤務中の息子にテレビがうるさくて、集中できない」や「目に入る度に働く気が失せる」と不満を述べられるという。
「確かに息子は真面目で、私から見ても良く働いているように思う。逆の立場なら、暇を持て余した私にいらつくのもわかる。ただ、ドラマの再放送くらいしか、楽しみがないんだから、許して欲しいよね」
SNSでは、こうした親子関係だけでなく、夫婦間の不平不満もたくさん見つけることができる。
ある建築会社の経営者は社長退任後、自宅で妻や娘と顔を合わせるのが嫌で嫌で仕方なくなり、新たな会社を作ったという。その経営者に長年使えた社員は「会社ではワンマン社長として知られていましたが、家庭では取締られる側だったんですよね」と感想を述べる。
喫煙者お断りマンションが増えそうな理由
関西地方に複数の物件を所有する賃貸住宅オーナーには、入居者から複数のクレームが寄せられるが、騒音と並んで多いのは「たばこ」トラブルという。
「ベランダでの、たばこがたびたびクレームになります。家族に配慮してベランダで吸うたばこの煙が他の部屋に住む人は気に入らないんです。確かに、仕事中にたばこで邪魔されるのは気分がよくないのかもしれないですが、大家や管理会社にできるのは限度があります」(賃貸住宅オーナー)
厚生労働省によると、日本全国での喫煙率は約20%しかない。世の中は圧倒的に喫煙者が少数派になっている。たばこ嫌いのほうが多いと言っても過言ではない。
前述のオーナーは続ける「喫煙者の部屋に相談に行くと、『家族からベランダで吸うように命令されている』という。『家族に配慮しているものを、なぜ他人の私が吸わされるんだ』と言われるのが落ちだから、クレームを言ってきた人には伝えられませんね」。
問題になるのはベランダでの喫煙だけでなく、居室内での喫煙であっても換気扇を通じて排出された副流煙が気になるというトラブルも少なくないという。
ある管理会社では「クレームを受けて調べたのですが、どの換気扇から排出された煙かが特定できませんでした。しかも、風向きや気温など季節要因によって、どの部屋に煙がいくのかもわからないため、対応に苦慮しています」という。
たばこに限らず、臭気に関わる話は複雑だ。住まい方だけでなく、季節要因まで計算するのはほぼ不可能だろう。
こうしたトラブルを受けて、「喫煙者お断り」の賃貸住宅もあるらしい。アレルギーや呼吸器系の疾患を持つ人がわざわざ探して住んだりするなど、好評という。おそらくたばこの煙による実害よりも、「精神的な安心」の方が大きいのではないだろうか。
改正健康増進法では2020年4月から飲食店・職場で原則屋内禁煙を義務づけてている。しかし、集合住宅などの個人の居住用住宅は適用を除外されている。
自宅が職場となる在宅ワークをするなら、屋内禁煙の職場なのか?それとも適用除外された住宅なのか?
どちら付かずの存在である。
改正健康増進法を推進した政治家があるインタビュー「お金の問題なら、意見が対立しても足して2で割ることはできる。しかし、健康や命に関するものはそうはいかない」と、答えていた。
実際に、「健康に関わる」と言われれば、返す言葉はほぼない。
喫煙者お断りのマンションが増えるのは間違いないだろう。
(取材・文 小野悠史)