不動産を購入するとなれば、多額の資金が必要となります。住宅を現金一括払いで購入できる人など、ごく限られた人です。投資物件を購入するにあたっても、同様に多くの場合は銀行からの融資に頼ることになります。なかには銀行が担保として取得している物件を安く購入したいという人達もいます。資金調達、情報源として銀行は欠かすことのできない存在です。
「良い案件ですね。前向きに検討させてください。」不動産融資の案件を持ち込んだところ、銀行員の反応も上々。きっと銀行は融資を承諾してくれるはず。ところが、とうの銀行員は内心不安で仕方ありません。上司や支店長、さらには本部が本当にこの案件を承認してくれるのか不安でなりません。
かつて銀行はバブル期に積極的に不動産融資を行いました。その後、バブル崩壊を経て銀行のみならず、日本中が不良債権処理に多大な労力と時間、コストを要したことは説明するまでもありません。現在とバブル期とでは全く環境は異なります。コンプライアンスの面でも与信判断の面でも銀行の融資は厳格になり、常識外れの無茶はできなくなっています。バブル期を知る銀行員そのものの数も随分減っています。にもかかわらず、銀行員には「不動産融資は恐い」」という恐怖心が刷り込まれてしまっています。
バブル崩壊の引き金となったのは当時の大蔵省が「総量規制」として不動産向け融資に対し規制を設けたことでした。銀行は許認可事業ですので監督官庁の許認可が無ければ商売ができません。国や監督官庁の方針に逆らうことはできないのです。経済政策に変更が生じることは、まさにハシゴを外されることにほかなりません。
銀行は国にハシゴを外されることを警戒する一方、銀行内部でも融資担当者、課長、支店長、そして本部の審査部それぞれが銀行内でハシゴを外されることを警戒しています。自分ではよい案件だと思った案件でも、必ず承認を得られるとは限りません。「どこでハシゴを外されるかわからない。その時は自分がその案件の責任を取らなければならない。」そんなことを銀行員はいつも考えているのです。「良い案けんけんですね。」と、笑顔で応対しながら銀行員はハシゴを外されたときのことを案じているのです。不動産融資にはあまり関わりたくないと思っている銀行員、案外多いのです。
なぜこんなお話をさせていただいたかと言うと、銀行との交渉をスムーズに行う秘訣がここにあるからです。銀行員が最も困るのは融資案件の承認が下りてから、想定外の出来事が発生することです。物件の瑕疵を隠すなどはもってのほかですが、悪い情報についてもできるだけ開示する必要があります。後に条件が変更になる可能性があるなら、それについても説明しておく必要があります。他の銀行と競合させることもあるでしょうが、何を重視するかも伝えておくべきでしょう。