モノの値段というのは実に複雑です。コンビニやファストフード店で値引き交渉をする人は恐らくいないでしょう。では、自動車を買うときにはどうでしょう。多くの人は少しでも安く買おうと値引き交渉を重ねるでしょう。私たちは定価で買うべきモノと、需給関係を考慮しながら交渉によって実勢価格が決まるモノとがあることを無意識のうちに理解しているのです。
では、不動産の価格はどうでしょう。土地の価格は「1物4価」とも「1物5価」ともいわれています。同じ土地なのに、4つも5つもの値段が存在しているのです。国土交通省が毎年1月1日を基準日とし3月下旬に発表する公示価格。これは土地売買の目安となる価格です。そして、都道府県が、毎年7月1日を基準日とし9月下旬に発表する基準地標準価格。公示価格がカバーできる範囲は限られているため、それを補完するために発表されます。各地にある国税局は毎年1月1日を判定の基準日として相続税路線価を発表します。およそ公示価格の80%相当を評価水準とされています。市町村は固定資産課税台帳に登録する価格である固定資産税評価額を発表します。これは3年に1度評価替えが行われ、前年の公示価格の70%相当が評価水準とされています。そして、実際の売買では土地の形状や利便性、将来性といったことまで考慮した実勢価格により取引が行われます。このように、さまざまな主体が、さまざまな目的のもとに土地の価値を判定しています。
こうした仕組みは非効率的だと考える方もおられるでしょう。しかし、実際にはそれぞれがうまく補完し合っているのです。公示価格だけでは対応しきれない箇所を都道府県が基準地標準価格によって補完するだけで無く、調査対象や発表の時期を調整し、より細かに地価の動向を把握することができるのです。相続税の算定の基準となる相続税路線価、固定資産税の算定の基準となる固定資産税評価額は実勢価格よりも低く算定される仕組みとなっており、土地を保有している人に対する配慮もなされているのです。
最近では地価が上昇しているというニュースを目にすることが増えました。地価の上昇は経済に好循環をもたらす一方で、土地保有者にとっては負担が増えることになります。毎年の固定資産税、相続税、土地を贈与する場合には贈与税が増えることとなります。土地を売却すれば譲渡所得が増えることになります。
土地の価値を高め、効果的に利用しながらも、保有コストを抑えるためにも、土地の価格がどのように決まるのか、その仕組みを知っておく必要があります。