銀行は融資先から決算書や確定申告書を定期的に提出していただきます。勿論、融資先の業績を知ることが目的ですが、お客様に見せていただいた申告書で不動産売却にかかわる大失敗を見つけたことがありました。ほんの少し、不動産や税金に対する知識があれば、こんなことにならなかったのに・・・ そんな失敗談を披露しましょう。
「今年は、随分税金を払ったんですね。土地を売却されたようですね。」「そうなんだよ、相続でお金が必要だって言うので、格安で買った土地なんだけど、商売したいって人がいて売って欲しいと言ってきたんだよ。」銀行の窓口へいらしたお客様、相続絡みの土地を格安で手に入れられ、たまたま運良く高値で売り抜けることに成功したのでした。それ自体は良いことなのですが、ちゃんとオチがあります。このお客様、もう数ヶ月売却を先延ばしすれば、不動産売却に伴う税金がずっと安く済んだのです。
そのカラクリは不動産を売却したときに課される所得税にあります。土地や建物の譲渡による所得は、他の所得、例えば給与所得などと合計せず、分離して課税する分離課税制度が採用され、さらに所有期間に応じ長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられています。長期譲渡所得では所得税15%と住民税5%が課税されます。それに対し短期譲渡所得では所得税30%、住民税9%が課税されます。さらに、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。
短期と長期の区分は保有期間が5年を超えるかどうかです。「なるほど、5年間保有すれば税金が安くなるのか!」と、早合点してはいけません。正確には、売却した年の1月1日現在で、その土地・建物を5年を超えて保有していたかで、長期譲渡所得になるか短期譲渡所得になるかが決まります。
この微妙な言い回しにお気づきでしょうか。例えば、平成23年3月1日に購入した土地を平成28年9月1日に売却したとします。この土地の保有期間は5年と6ヶ月ですから、長期譲渡所得となり、税金が安くなると考えては大きな間違いです。平成28年1月1日現在で5年を超えているかどうかが問われるのです。本件の場合は4年と10ヶ月、つまり5年を超えず、短期譲渡所得となるのです。
さらに、譲渡取得税を節税するためには、不動産を買った時の諸経費と売った時の諸経費を、漏れの無いようにきちんと計上し、なるべく譲渡所得の金額を低く抑えるようにすることは基本です。また、買った時の諸経費についてはっきりわからない場合は、売却価格の5%として計算することが可能です。売り値が高ければ、こちらの計算方法が節税になる場合もあるので、どちらが得か試算してみましょう。