8月3日は「寺からトラが脱走した日」だ。
1979年のきょう、千葉県君津市にある寺院・神野寺(じんやじ)の境内に併設されていた動物園からトラが3頭脱走した。
千葉県君津市・神野寺 (画像=ぱくたそ)
脱走した3頭のうち、1頭はすぐにつかまり2頭が山中に逃げ込んだ。
大規模の捜索がおこなわれたが見つからず、マスコミ各社が駆けつけトラ捜索劇は全国的な注目を集めていく。
当時、神野寺では、十二支にちなんだ動物を境内で飼い、観光客に有料で見せていた。
3日未明、寺院から「飼っているトラが檻から逃げた」と管轄の木更津署に一報が入る。すぐに警察官や県機動隊、地元消防団など500人近くを動員し、捜索を行った。
トラが逃げ込んだ鹿野山は千葉県内で2番目に高い山で、近くには観光農園のマザー牧場もあり「千葉の軽井沢」と呼ばれるほどたくさんの観光客が訪れる場所だった。
旅館や民宿、ロッジも多くこの日も約300人の宿泊客がいたため、警察は禁足令を出し、警戒態勢をしいた。
当初は、神野寺住職の意向もあり、生け捕りを目標にしていた。
また全国からトラを殺さないでという声も寄せられていた。
当時の新聞記事 (画像=リビンマガジン編集部撮影)
しかし、腹を空かせたトラが民家を襲った。人間に被害は無かったが、民家で飼われていた犬が無残な姿で発見されたことで情勢が変わっていく。
それまで、山中でしか発見されなかったトラが住宅街にも現れた衝撃は大きく、どこか他人ごとのように考えていた周辺住民達にも動揺が拡がっていった。
これにより、住民に被害が出る前に射殺しなければ、という気運が高まったという。
さらなる捜索態勢の拡大がされるが、トラは見つからずこの騒動は約1カ月間に及んだ。
近くのゴルフ場やマザー牧場は客足が遠のき、閑古鳥が鳴いている状態だった。
住宅街では、いつ現れるか分からないという恐怖に怯えながらこの夏を過ごした。
「これは間違いなく人災。なのに寺からは詫びのひとつもない」と怒りをつのらせて、寺に損害賠償請求をしようとの考えもあった。と当時の新聞は伝えている。
脱走事件発生から25日後の8月28日に猟友会が茂みの向こうにトラを発見し、すぐさま射殺した。
この事件が契機となり、猛獣の飼育に関する条例が全国で相次いだ。
事態を重くみた千葉県でも、「危険な動物の飼養及び保管に関する条例」がすぐに施行される。
トラの射殺によって、神野寺周辺の静かで長い夏が終わった。