6月11日は「日本列島改造論」が発表された日である。
改造論は1972年のこの日、自由民主党総裁選挙を翌月に控えた田中角栄が、選挙公約として発表したのだった。
発表の9日後には、日刊工業新聞社から書籍化され、全国の書店に並ぶことになる。
当時の日本では、東京など大都市に人口が集中し、公害や農村の過疎化、交通渋滞などの問題が深刻化していた。同論は、大都市の過密を地方に分散し、列島各地を結ぶ高速道路や新幹線を整備して、人モノの流れを変えようと目指す、という角栄の考える国家ビジョンがまとめられていた。
角栄は翌7月5日に、角福戦争とまで称された福田赳夫との激しい争いに勝利し、自民党総裁の座を勝ち取った。54歳という戦後最年少の首相(当時)となり、その高い人気から本は瞬く間に売れ、90万部を超える一大ベストセラーとなった。
政治家が出した本としては空前の大ヒットとなり、この後に続く政治家本は現れなかった。
次点を上げるなら、自民党総裁選を控えた安倍晋三首相が官房長官時代に出版した本だ。
2006年に出版された「美しい国へ」は、小泉純一郎が首相を退任後の後釜を決める大事な選挙前ということも相まって、50万部を超える売り上げとなった。しかし、内容はダイナミズムに欠け、観念的であり、社会現象化していた改造論には遠く及ばぬものだった。
田中角栄像 (画像=写真ACより)
角栄はとにかく本が売れる政治家だった
首相として多くの実績を残し、実行力を備えたリーダーと評される角栄だった。しかし、立花隆や児玉隆也などのルポライターの手による記事が文藝春秋に掲載され、金銭スキャンダルが明るみにでてしまう。直後から、角栄を扱った書籍が多数出版され、軒並みベストセラーを記録する。
首相退任後にはロッキード事件が発覚し、逮捕にまで至ってしまう。その後は、長く悪名だけが残ることとなった。
しかし、その評価も大きく変わりつつある。
昨年、石原慎太郎が発表した小説「天才」が呼び水になり、再び田中角栄ブームが起きた。
「天才」は約92万部を売り上げる大ベストセラーとなり、当時の角栄関連本も復刻版として発売が相次いだ。角栄はとにかく本が売れる政治家だったといえる。