小林悟 生産緑地プロフェッショナルへの道
「生産緑地の2022年問題」は不動産業界にとどまらず、一般報道でも話題になっています。なかには「生産緑地の2022年問題」で、不動産価格が大暴落する!といった事実なら不動産ビジネスに大きな影響があるような報じ方をするメディアもあります。
いずれにせよ生産緑地の2022年問題を意識することは重要なことです。そこで、農地や生産緑地のコンサルティングをてがける、スマート・ホーム 小林悟代表に生産緑地の解説や事例を紹介していただきます。生産緑地の2022年問題を知り、生産緑地について一歩ずつ理解することで、生産緑地のプロフェッショナルに近づきましょう。(リビンマガジンBiz編集部)
(画像=写真AC)
今回は、皆さんのビジネスに活かせるように、生産緑地の2022年問題によって不動産市場がどうなるのかを予測してみます。あくまでも私個人の見解ですが、参考になれば幸いです。
あらためて生産緑地の2022年問題とは何か
第1歩 生産緑地2022年問題とは何なのか?で解説した通り、生産緑地とは、東京、名古屋、大阪を中心とした三大都市圏内の市街化区域において生産緑地の指定を受け、営農を30年継続することを条件に、固定資産税の減額(農地並み課税)と相続税の猶予という税制面の優遇を受けている農地のことです。現在13,437.7ヘクタール(4,064万坪)あります。このうちの8割にあたる約10,750ヘクタール(3,251万坪、東京ドーム2,287個分)の生産緑地が2022年に一斉に解除期限を迎えます。
その結果として、大量の土地が生産緑地を解除されることになり、分譲業者等に売却されて新築住宅の売物件が市場に大量に供給され、地価が暴落すると予想されています。また、土地を有効活用するために賃貸物件が大量に供給され、賃貸物件の空室率が急上昇し、賃料が下落するとも言われています。これらの問題を、『生産緑地の2022年問題』と言います。
様々なニュース等の報道を見ると2022年に不動産が大暴落する。という悲観的なものと、生産緑地の一斉解除は限定的かつ小規模に留まり、不動産市場への影響は小さいのであまり気にする必要はない。という楽観的なもののどちらか両極端な予測が多いです。では、実際のところ2022年になったら生産緑地の問題によって不動産市場はどうなるのかを具体的に予測してみましょう。
2022年時点の生産緑地オーナーの選択肢
2022年に広大な面積の生産緑地が一斉に解除期限を迎えます。その際に生産緑地オーナーが取れる選択肢は以下の4通りです。
(1)特定生産緑地の指定を受け10年間延長
(2)生産緑地を解除して宅地化の上、売却
(3)生産緑地を解除して宅地化の上、賃貸物件を建築する等の有効活用
(4)特定生産緑地の指定を受けず営農を継続する
(1)の選択肢は、平成30年4月の生産緑地法改正により特定生産緑地制度が新設された結果、その指定を受けると、引き続き10年間にわたって生産緑地と同様の税制面の優遇を受けることができます。もちろん営農義務も10年間延長されます。
(2)の選択肢は、2022年問題の発生原因となる宅地化して売却するというものです。この選択肢を選ぶ生産緑地オーナーが多い場合、不動産価格が暴落して深刻な影響が出る可能性があります。
(3)の選択肢は、宅地化して賃貸物件等を建築するというものです。このケースも2022年問題の発生原因となります。この選択肢を選ぶ生産緑地オーナーが多い場合、賃料の下落、空室率の上昇によってアパートローンの返済が難しくなります。賃貸経営環境が悪化し、場合によっては破綻するオーナーも急増する可能性があります。
(4)の選択肢は、特定生産緑地の指定を受けないので、いつでも生産緑地を解除できる状態になりますが、固定資産税の減額がなくなり宅地並み課税となります。
生産緑地の2022年問題による不動産市場の予測
2022年に何が起こるかは、(1)~(4)の選択肢が選択される割合によって変わるはずです。その予想をしてみることで、2022年時点でどれくらいの面積の生産緑地が解除される可能性があるかを検証してみます。
以下のような前提条件を設定しておよその想定面積を算出してみます。
2022年に解除期限を迎える生産緑地の面積約10,750ヘクタール(3,251万坪)×納税猶予の特例の適用を受けていない生産緑地の割合約40%=4,300ヘクタール
最大で約4,300ヘクタール(1,300万坪)の生産緑地が一斉に解除される可能性があります。この中からどれ位の割合の生産緑地が解除されるかによって不動産市場に与える影響は異なってきます。
仮に上記の2022年時点の生産緑地オーナーの選択肢の(1)特定生産緑地の指定を受け10年間延長の割合を50%、(2)生産緑地を解除して宅地化の上、売却の割合を20%(3)生産緑地を解除して宅地化の上、賃貸物件を建築して有効活用の割合を20%、(4)特定生産緑地の指定を受けず営農を継続する割合を10%とします。この数字は、私が相談をうけた方の動向や同業者の声から予想したものです。
(1)4,300ヘクタール×50%=2,150ヘクタール
(2)4,300ヘクタール×20%=860ヘクタール(約260万坪、東京ドーム183個分)
(3)4,300ヘクタール×20%=860ヘクタール(約260万坪、東京ドーム183個分)
(4)4,300ヘクタール×10%=430ヘクタール
仮説では(2)と(3)の割合を少なめに設定しました。上記の計算式によると、宅地化の上、売却される面積は860ヘクタールとなりました。
(2)生産緑地を解除して宅地化の上、売却のケースでは、どの位の宅地が新規分譲されることになるのかを考えてみます。860ヘクタールは860万㎡ですので、仮に1区画の面積(道路負担部分含む)を100㎡とした場合の概算では、8万6000区画の新規戸建分譲地が一斉に市場に流通することになります。平成29年の分譲住宅の国内着工件数は約13万8000件でしたので、首都圏、中部圏、近畿圏の三大都市圏だけで昨年の国内着工件数の62%が一斉に供給されることになります。その影響はとても大きく、2022年には三大都市圏の地価の下落圧力が強まることが予想されます。
(3)生産緑地を解除して宅地化の上、賃貸物件を建築して有効活用するケースでは、どの位の賃貸物件の部屋数が増えるのか考えてみます。仮に1部屋の面積を50㎡とした場合、860万㎡(容積率100%で試算)×レンタブル比率70%÷50㎡=120,400室となります。一斉に12万室以上の賃貸物件が三大都市圏の賃貸市場に流通すると既存の賃貸物件のオーナーにとって大変な脅威となります。現在でも賃貸物件の空室率の高さが問題視されている状況ですので、2022年には三大都市圏の居住用物件の賃料は下落し、空室率は上昇すると予想されます。その結果、賃貸物件オーナーの破綻が急増するとアパートローンは融資金額が大きいため、金融機関の経営状態も悪化することでしょう。