先日、新規で確定申告のご依頼を受けたYさんから、不動産賃貸業の必要経費として妻へ支払っている給与(青色事業専従者給与)を、今後増額したいとご相談がありました。
Yさん
もうすぐ確定申告ですね。
先生,今回から私の申告、宜しくお願いします。
私
こちらこそ宜しくお願いします。
Yさんは去年,新規で物件取得されたようですから,家賃収入が大分増えたんじゃないですか?
Yさん
そうなんです。
家賃収入が多くなってそれは嬉しいのですが,不動産賃貸業って経費が少ないので税金が心配です。
そこでご相談なんですが,妻に払っている青色事業専従者給与を今後増やすことってできますか?
できれば思い切って今までの倍の年間600万円くらいにしたいんですが・・・。
私
確か奥様は同族会社の役員になっていて,そこからも役員報酬もらっていますよね?
Yさん
はい。
不動産管理会社を設立していまして,そこの代表取締役になっています。
宅地建物取引主任者でもあるので,年間1,000万円の役員報酬を取っています。
私
前の先生はそれで何も言わなかったのですか?
Yさん
はい。特に何も言われたことはありません。
私
そうですか・・・(やれやれ)。
不動産賃貸業の場合の青色事業専従者給与の要件を簡単に説明しますと,
①不動産賃貸業が事業的規模であること。具体的には概ね5棟10室以上であること。
②青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
③その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
④その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間),その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
⑤一定の届出をして,その範囲内の金額であること。
⑥青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること。
なんです。
そうすると奥様の場合,不動産管理会社の代表取締役をしているということですから,青色申告者の営む事業,要するにYさんの不動産賃貸業に「専ら従事している」と言えるのかが問題ですね。
一般的にはなかなか厳しいのではないでしょうか。
仮にその問題をクリアしたとしても,年間600万円の青色事業専従者給与が,「労務の対価として相当であるか」,問題がありそうですね。
Yさん
でも帳簿付けたり,物件周りの清掃とか,色々やってますよ。
私
もちろんです。
何もしていなかったら,それこそ架空経費って言われてしまいます。
色々仕事はしているんだと思いますが,年間600万円ということは月に50万円ですから,一般常識で判断して,50万円に相当する業務内容や仕事量であるか,という問題なんです。
Yさん
そう言われると確かに言葉に詰まります・・・。
私
去年の話ですが,不動産賃貸業をしている夫が,妻に支払った青色事業専従者給与530万円が高すぎるということで税務署に否認された事例があって,裁判でも納税者が負けているんですよ。
*東京地裁H28.09.30判決(TAINSコード:Z888-2030)
Yさん
そうなんですか?
私
そうなんです。
税務は一般常識で判断すれば大体問題ありません。
これはちょっと危ないかな?と不安に思ったとしたら,その感覚は正しいんです。
Yさんの場合,青色事業専従者給与をこれ以上増額して節税することは難しいかも知れませんが,他の方法を一緒に検討しましょう。
Yさん
はい。宜しくお願いします。
不動産賃貸業で、青色事業専従者給与をいくらまでなら必要経費に算入できるか、というのは一律には述べられません。
その事業専従者が労務に従事した期間、労務の性質及び提供の程度,その事業の種類及び規模,同業他者で規模が類似するものの支給状況などを総合勘案して決めることになります。