賃貸不動産を購入する場合,個人で購入するケースと法人を設立して購入するケースが考えられますが,税務会計上のそれぞれの取扱いを比較してみます。
<税率>
個人:所得税の税率は5%~45%の7段階による超過累進税率です。他に住民税が一律10%課税されます。
法人:中小法人の実効税率は約26%~34%です(2016年標準税率)。
<必要経費全般>
個人:法人に比し厳しい傾向にあります。
法人:個人に比し広範囲に認められる傾向にあります。交際費,会議費,車の減価償却費など。
<親族への給与の支払い>
個人:青色事業専従者給与として事前に届出が必要です。原則として賃貸不動産経営に専従している必要があります。
法人:非常勤役員でも役員報酬の支払いが可能です。
<生命保険の活用>
個人:所得控除として最大で年間12万円が控除されます。
法人:規定上の上限はありません。生命保険を活用して将来の大規模修繕費用を計画的に積み立てることが可能です。
<減価償却>
個人:強制償却です。
法人:任意償却です。今年度は赤字だから減価償却費を計上しないということも可能です。
<損失が生じた場合>
個人:他の所得(給与所得など)と損益通算し,なお控除しきれない金額は3年間繰り越すことが可能です(青色申告の場合)。
法人:10年間の繰り越しが可能です(H29.4.1以後の青色申告の場合)。
<物件購入時の消費税還付>
個人:他に事業を営んでいる等の事情が無ければ難しいです。
法人:計画的に課税売上割合をコントロールすることで可能です。
<社会保険>
個人:賃貸不動産経営だけであれば一般的には加入義務はありません。
法人:原則として強制加入です。
<信用力>
個人:法人に比し信用力が低いです。
法人:個人に比し信用力が高いです。個人オーナーよりも入居者が集まりやすい傾向にあります。
<総論>
個人が有利か,法人が有利かは,その人の属性や収入,家族構成,今後の方針などを総合勘案して判断しますので,画一的にどちらが有利であるとは言い切れませんが,法人として賃貸不動産経営をする方が有利なことが多いように思います。
ところで,賃貸不動産を購入した年は登録免許税や不動産取得税等を支払うため不動産所得がマイナスになるケースがあります。
多額の給与所得がある人は,最初からそれを見込んで多額の給与所得と不動産所得のマイナスを損益通算し,所得税と住民税の節税を図ろうとしますが,2年目以降は不動産所得が黒字になるケースがほとんどですので,この節税スキームの効果は購入した年だけとなります。
たまに,上記スキームのために毎年物件を購入している人を見かけますが,いくら節税のためとはいえ,バラバラの場所に物件がありますと管理も収支も非効率です。
このような人は思い切って全て売却し,これまでの融資枠全体を使って法人として1棟ものを購入し,それ以降は法人として賃貸不動産経営をすることをお勧めします。