不動産売買により税金負担が生じるのは、当然のことながら、a取得した際、b売却した際の2つのタイミングになります。
a取得した際には、不動産取得税・登録免許税といった流通税負担が生じますが、こればかりは固定資産税評価額に一定の税率を乗じて計算されることが法定されているため、節税のしようかありません。
そうなると、b売却した際に譲渡所得に対して課税される所得税・住民税負担を抑えられないかがポイントになってきます。算式は以下のとおりです。
(①収入金額-(②取得費+③譲渡費用)-(適用があれば)④特別控除額)×⑤税率
これを5つの構成要素に分けて節税ポイントを検討したいと思います。
①収入金額:売却金額ですので節税とは無関係ですが、手残りを考えれば当然税金が高くても高く売れた方がよいことになります。
②取得費:取得費とはその物件を購入した際の売買代金や諸経費を指します。取得費が不明の場合には概算取得費(収入金額×5%)で計算されてしまいます。先祖代々相続している物件はこちらを採用することになってしまいますが、自らがそれなりの金額をキャッシュアウトして購入している場合には取得に関する契約書等のエビデンスを必ず紛失しないことが重要になります。
これも1つの節税です。例えば取得費が2,000万円、収入金額が5,000万円の場合、エビデンスが無ければ250万円(=5,000万円×5%)しか取得費に算入されないのに対し、エビデンスが有れば2,000万円を取得費にでき、その差は1,750万円です。長期譲渡であった場合、約355万円(=1,750万円×20.315%)の節税効果になります。エビデンスが無ければ絶対に認めてくれないという訳ではないですが、かなり厳しい戦いになることは否めません。また、相続開始後3年10ヶ月以内に相続した土地を売却した際には、相続税を支払っていることが前提ですが、この取得費に相続税の一部を加算できることになりますので、加算額×税率だけ節税可能となります。従いまして、土地を相続した相続税を支払った場合には、3年10ヶ月以内という期限は覚えておいて損はないです。
③譲渡費用:譲渡費用とはその物件を売却する際にかかった費用です。これは売却時に必ず把握していますので、エビデンス紛失の可能性は乏しいと考えれるため特に関係ないかと考えます。
④特別控除額:特別控除とは一定の条件を満たせば税額が安くなる制度です。問題はここです。要件を満たせばかなり有利な要件が種々あります。したがって、実務上、よく該当しそうな特例を把握しておき、その要件を満たせるか否かを「事前」に確認することが必須となります。売却してからでは時既に遅しという状況は往々にしてあります。
主な特別控除として
1)居住用財産の売却(3,000万円控除)、
2)収用による売却(5,000万円控除)、
3)特定区画整理事業による売却(2,000万円控除)、
4)特定住宅地造成事業による売却(1,500万円)などが挙げられますが、実務上、圧倒的に注意すべきは1)居住用財産の売却(3,000万円)になります。
その他の特例は通常、事業実施者からのアナウンスがありますので、見落としはほとんど考えにくい状況です。であれば、一般の方が注意すべきは1)居住用財産の売却、つまりマイホームの売却になります。
この要件は本当に注意しなくてはなりません。例えば、「親族間売買はNG」というのは基本的な要件ですが、「以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること」には注意が必要です。
住まなくなってすぐに売却する場合には全く気にしなくても構いませんが、例えば、住宅ローンのないマイホームを高値で売るためにすぐに売却せず暫く塩漬けしていて期間を経過してしまったケースなどは目も当てられません。
また、高値で売れないからといって、売れない期間を賃貸に出してしまってもNGです。そして、相続した不動産をマイホームとしており、そのマイホームを売却し、売却代金を充当するとともに住宅ローンを組む場合には、3,000万円控除と住宅ローン控除の重複はできません。実務上は有利判定をする必要がありますので、これにも注意が必要です。
言い出せばキリがありませんが、確認しておくべき要件があることだけでも知っておけば、何百万円も税負担に差が生じることは往々にしてありますので、マイホーム売却に際しては事前に税理士へ確認することをお勧めします。
⑤税率:先祖代々相続している不動産の場合には長期譲渡となりますので、それほど気にする必要はありません。注意すべきは短期譲渡です。例えば、購入した賃貸マンションを不動産高騰に伴い短期で売却する場合などは注意が必要です。特に取得してから5年超と勘違いをしている方が多いですが、譲渡年の1月1日で5年を超えている必要がありますので、単純な保有期間で判断しないようにしましょう。高騰している場合には相手のある話しなのでかなり焦って売買しがちですが、税負担も考慮にいれなければ手取が何百万円も少なくなる可能性があります。