税理士・公認会計士の木下勇人です。名古屋で相続専門の税理士法人を主宰しております。
今回は 「不動産の時価」と「遺産分割協議」の関係 を検証してみたいと思います。
不動産の時価って、税理士先生の感覚からはズレてしまうものなので、
私は実務で、この感覚を忘れずに遺産分割協議の場に臨んでいます。
個人的には一般の方含め、めっちゃ大事だと思っています。
■事例
母は既に他界、父、長男、次男の家族がいます。
父に相続が発生すると相続人は2人(長男、次男)。
長男家族と父は同居しており、いわゆる二世帯住宅。
父の財産は以下のとおり。
①自宅(建物及びその敷地):1億円(建替えてまだ数年)
②収益マンション(建物及びその敷地):1億円(H5年築)
③金融資産:5,000万円
① → 兄弟の中で、自宅で小宅適用することの合意あり
小宅適用後の評価額とする。
二世帯住宅なので、兄が相続する予定。
② → 繰上げ返済を繰り返し、残債なし。
不動産収入は年間1,000万円ある。
弟が相続する予定。
相続税:
2.5億円 - (3,000万円+600万円×2人) = 2.08億円
2.08億円 ÷ 2 = 1.04億円
1.04億円 × 40% - 1,700万円 = 2,460万円
2,460万円 × 2人 = 4,920万円(約5,000万円)
■納税資金
相続財産に含まれる父の金融資産でギリギリ支払える金額なので、
兄弟で均等で分配することとした。
■遺産分割協議
兄:自宅(1億円)と金融資産半分(2,500万円)
弟:収益マンション(1億円)と金融資産半分(2,500万円)
■検証
皆さんが相続人なら、どちらの不動産が欲しいですか?
私なら考える間もなく
収益マンションです。
理由は簡単です。
残債もなく収益性があるからです。
何がお伝えしたいかと言えば、
「兄が相続する自宅1億円」と「弟が相続する収益マンション1億円」は意味が違うという事!
相続税評価はあくまでストック価値を反映させただけのもので収益価値が反映されていません。
自宅は何も収益を生んでくれません。
建替えた立派な自宅に住むことで、働く気力が湧くなどは考えられますが、
トータル収益に跳ね返せば、その寄与度は薄いように感じます。
建物価値は減っていくだけです。
これに対して、収益マンションは違います。
相続税評価1億円ですが、収益価値に弾き直せばさらに価値が上がります。
年間収入1,000万円ということは、毎年の経費(固定資産税、修繕費など)を300万円と仮定すると
それを差し引いた700万円から税金30%(仮定)の手残りは490万円となります。
つまり、単純計算で毎年概算で500万円残るということになります。
この物件を10年間保有するだけでも5,000万円ストックできることになります。
建物価値は減っても、それを補うだけでの収入があります。
このように、資産価値を増大させる観点も絶対的に必要な感覚だと思います。
相続税評価額だけでは本当は判断できないはずです。
遺産分割協議は税理士がリードする場面が多くなりますので、
税理士がこの辺りも考慮しながら遺産分割協議を進めていくのが望ましい姿だろうと思います。
ただし、このケースであれば、兄が弟に将来収入の一部を要求することになって
争続となってしまう可能性は否めませんが・・・