税理士 金井義家 ニュースの目利き
ちまたにあふれるニュースの中には、不動産ビジネスに役立つ「金のニュース」が存在する。不動産ビジネスに造詣の深い公認会計士・税理士の金井義家さんが解説します。(リビンマガジンBiz編集部)
(画像=ぱくたそ)
今月のニュースの目利きでは、医師が同族会社に支払った高額な不動産賃借料に所得税法157条1項(行為計算否認規定)が適用された平成28年11月29日佐賀地裁判決を取り上げます。
前回はあまりに安すぎる家賃が税務当局に指摘されたケースを解説しました。今回は逆に高すぎる家賃に待ったがかかった事例です。
自分の会社が所有する不動産で診療所を開設
原告である医師は、同族会社(=自身の会社)が所有する不動産を借りて診療所を開設していました。医師は自身の会社に毎月約100万円の家賃を払っていました。
家賃が「著しく高額」として更正処分
しかし税務当局は、医師が自身の会社に支払っている毎月約100万円の家賃は著しく高額であって「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」(所得税法157条1項)としました。つまり医師は自身の会社に家賃を払いすぎており、払いすぎた部分は必要経費にはならないとしたため争いとなったのです。
よく自宅や妻所有の不動産を事務所に使い、家賃が高すぎると指摘される政治家がいます。その時は選挙民とマスコミが高すぎる家賃を指摘しますが、税務当局が高すぎる家賃も指摘することもあるのです。
そりゃあそうだ!「適正な賃料」イコール「相場賃料」よりも高すぎる家賃を払っちゃダメでしょ。
税務当局は医師が自身の会社に支払っていたこの約100万円の家賃が「適正な賃料」、すなわち「相場賃料」と比較して著しく高額、つまり極端に高すぎることが問題であると主張しました。そして佐賀地裁も、医師が支払っていた家賃が「適正な賃料」よりも極端に高すぎるのであれば、確かにそれは問題であるとしました。
そりゃあそうだろうという話です。
次に佐賀地裁は医師が払っていた毎月約100万円の家賃が「適正な賃料」、すなわち「相場賃料」に比して本当に極端に高すぎるのかということを検討しました。
税務当局は、医師の不動産と近い場所に存在している、建築費・築年数が類似している、あるいは親族や自身の会社以外の第三者に貸しているなど、いくつかの基準を決めて「類似物件」を選定し、これらの「類似物件」の賃料を基に「適正な賃料」を算定していました。
この税務当局の「適正な賃料」の算定方法について、佐賀地裁は検討した結果「恣意の介在を窺わせる事情もなく、抽出された類似物件も比準物件として相当なものということができ、類似物件の平均賃料によって算出された各不動産の賃料は適正賃料として正確性が高いものと認めることができる」としました。