税理士 金井義家 ニュースの目利き
ちまたにあふれるニュースの中には、不動産ビジネスに役立つ「金のニュース」が存在する。不動産ビジネスに造詣の深い公認会計士・税理士の金井義家さんが解説します。(リビンマガジンBiz編集部)
「相続税を減らすための不動産購入」「不動産活用で相続税をゼロ円に」といった不動産会社の広告を見ない日はありません。タワーマンション節税という言葉も一世を風靡しましたね。
今回は、こうした不動産購入による相続税対策が税務署によって否認される!という、不動産ビジネス全般への影響が大きそうなニュースを取り上げます。
相続税対策に2つの不動産を購入した資産家
さて、まずはニュースの概要をかいつまんで説明します。
くだんのニュースは平成29年5月23日の国税不服審判所の裁決事例がもとになっています。
被相続人は平成20年にA銀行に相続や事業承継について相談。翌年、平成21年にアドバイスをもとにA銀行から借り入れをして、2つの不動産を購入しました。「これで、安心じゃわい」と思ったかどうかは、わかりませんが被相続人は平成24年6月に死去しました。
さて、残された相続人は2つの不動産を「相続税評価額」すなわち国税庁の定めた評価通達に基づき評価し、相続税の申告をしました。これに対して税務署が独自に鑑定評価をおこなったところ申告された相続税評価額はその30%にも満たなかったのです。
「そんな安いわけないだろうが!」と税務署の職員が怒ったかどうかは定かではありませんが、このままでは「租税負担の公平が著しく害される」として、税務署の鑑定評価額に基づいて相続税を算定すべきであるとして更正処分をおこなったために、相続人たちと争いになりました。
(画像=写真AC)
国税不服審判所が驚きの裁決理由
このような税金について揉めた場合、国税不服審判所という機関に争いが持ち込まれます。今回のケースでも双方が意見を主張し、裁判でいうところの判決である裁決となりました。そして相続人たちの請求は棄却、「税金、払ってね」となったのでした。
ここまでは良くある話です。銀行や不動産会社、中には専門家である税理士に相談していたのに、泣きを見た人は大勢います。ニュースの目利きである私が、わざわざ取り上げる必要はありません。このニュースが私を驚かせたのは、裁決の決め手となった理由でした。
それは、銀行の「貸出稟議書」だったのです。
「貸出稟議書」とは、銀行の融資担当者つまりは営業行員が作成するものです。一般企業の稟議書と同じく、「この人に、いくらを貸し出します。よろしいですか?」といった内容が書かれています。通常は支店内で複数の担当者にまわされ、支店長が最終決済をします。平たく言えば、「全員確認したよねー?後から聞いてないとか止めてねー」というためのものですね。
当然ながら、「誰にいくら貸し出します!」だけではなく、「何のために貸します!」といった内容も記載されています。
税務署が入手したA銀行作成の「貸出稟議書」には、本件貸し出しが「相続税対策としての収益物件の購入資金である等」という内容が、しっかりと明記されていました。この「貸出稟議書」が決め手になり、国税不服審判所は「本件被相続人の本件各不動産の取得の主たる目的は相続税の負担を免れることにあり、本件被相続人は、本件各不動産の取得により本来請求人らが負担すべき相続税を免れることを認識した上で、本件各不動産を取得したとみることが自然である」としました。
その上で本件については「相続税の目的に反する著しく不公平なものであるといえる」として、税務署の主張を全面的に認めました。