毎週水曜日配信、「カジコンの不動産業界地獄耳」
業界歴21年、不動産会社専門コンサルタント 梶本幸治さんが、不動産業界で見た・聞いた話を紹介します。
今回は、皆さんのお家のポストに投函されている、不動産会社のチラシにまつわるお話です。(リビンマガジンBiz編集部)
セクハラ、アルハラ、モラハラ等、現代の世の中には様々なハラスメントが溢れています。
今回は、世間的にブラック企業が多いといわれてしまっている(最近はそんなこともないのですが!)不動産業界で聞いたパワハラの話をご紹介します。
(画像=ぱくたそ)
私の知り合いのMさんは、とある不動産会社の営業マンです。Mさんが配属されている営業所の所長は、全社的に名の通った「イケイケスーパー所長」でした。この所長は若手営業マン時代から抜群の業績を上げ、20代の若さで営業所長に抜擢されるやいなや、営業マンとしての個人成績も、自ら預かる営業所の成績も、常に全社トップを走り続ける「営業の神様」みたいな方です。
スーパー所長は見た目も俳優の宇梶剛士さんに似ておっかなく、部下である営業マンからは「実績」と「見た目」の両面から恐れられていました。
この営業所では毎週月曜日の夜から、次の週末に配布する不動産チラシの準備をするため、広告作成のための会議をしています。その内容が壮絶です。
チラシにはオモテ・ウラあわせて約30物件ほど掲載します。掲載する物件は、「他社のチラシやネットに出ていないものを掲載しろ!」との所長命令が下っており、Mさんをはじめ営業所のスタッフは朝から夕方まで、他の不動産業者を訪問し、「公開されていない物件の情報」を探しまくります。
外がすっかり暗くなった頃になんとか物件が揃うと、まずは営業マンだけで広告作成会議を開始します。そこで30物件を選定し所長に報告するのですが、ここからが大変です。
所長席を取り囲むように並んだ営業マンに対し、スーパー所長は1物件、1物件、時間をかけて掲載理由を尋ねていきます。掲載理由だけでなく、物件の内容を把握しているかについても質問が飛びます。営業マンは、所長の質問に対して、資料を見ずに答えることを義務付けられているので相当なプレッシャーです。
この「掲載予定物件の資料を所長に見て頂く作業」を、同営業所の営業マンたちは「献上の儀」と呼んで恐れていました。
スーパー所長「おい!田中!このA物件の敷地面積は!?」
田中さん「はい、118.23㎡です」
スーパー所長「馬鹿野郎!不動産の面積は㎡数ではなく坪数で答えろ!」
田中さん「失礼しました。35.78坪です」
スーパー所長「よし!では次、加藤!このB物件は何年の建築だ!」
加藤さん「はい。平成12年3月建築です。平成27年に大規模リフォームをしています」
毎週毎週、このような「広告作成会議」を行っているため、営業マンも物件の基本スペックを頭にたたき込んでいます。ほとんどの場合は、比較的スムーズに質疑応答が続きます。しかし、もしも答えられなかったら…恐ろしい世界がまっています。
スーパー所長「よし、次はM!」
いよいよMさんにお鉢が回ってきました。緊張した面持ちで所長の質問を待ちます。
スーパー所長「このC物件の駅からの距離は?」
簡単な質問にホッとしたMさんは、大きな声で「はい!○○線□□駅から徒歩約8分です」と元気よく答えます。そして、次の質問を待つMさんに対し、スーパー所長はこう尋ねました。
「では、C物件の屋根は瓦葺(かわらぶき)か?それともスレート葺か?」
屋根が瓦?スレート?ヤバい!そんなところは確認していなかった!
一気に汗が吹き出し、俯くMさんに対しスーパー所長の怒鳴り声が落ちてきました。
「馬鹿野郎!お前は瓦葺かスレート葺かも把握していないのか!そんなことで家が売れるのか!適当な知識でお客様に物件を勧めるのか!今すぐ現地へ行って確認してこい!」
「はいっ」とも「ひえっ」とも区別のつかない声を出したMさんは、壁にかかっていた営業車のキーを掴むなり、物件現地に向かって走り出します。この時点で、時計の針は午後11時30分を指していたそうです。
後日、この話を居酒屋で聞かせてくれたMさんは焼酎のロックをあおりながら、ボソッとこう言っていました。
「瓦かスレートか知らなくても、家は売れるさ…」
ちなみに、この物件は「瓦葺」だったそうです。