毎週水曜日配信、「カジコンの不動産業界地獄耳」
業界歴21年、不動産会社専門コンサルタント 梶本幸治さんが、不動産業界で見た・聞いた話を紹介します。
不動産を査定する不動産会社の営業マンは、お家や部屋を隅々まで確認します。ときには偶然、依頼者家族の恥部まで確認してしまうことが…。(リビンマガジンBiz編集部)
突然ですが、あなたが初めて異性と交際されたのはいくつのころですか?
ちなみに私は高校二年生でした。
「えっ!遅っ!」と思われたそこの失礼なあなた!私が通っていた奈良県の公立高校では、当時これくらいの年齢で初めての彼女ができるのは平均的でした!…たぶん。
初めてできた彼女は一歳年下の後輩でして、バレンタインデーに彼女から告白されました。初めてのデートは・・・って、私の話なんか興味ないですか?
まぁ、初めて彼氏や彼女ができるのって嬉しいものです。しかし、若さゆえにどこか荒削りな恋愛になってしまいがち。本日はそんな荒削りな恋愛に遭遇した、不動産営業マンのお話です。
ある日、私の知り合いであるCさんは、不動産を売りたいという問い合わせを受け、早速お家に伺いました。お客さんの話を聞くと、今住んでいるマンションの売却ではなく、その前に住んでいた今は誰も住んでいない一軒家を売却したいとのこと。その一戸建てはここから少し離れたところにありました。Cさんは査定をするために、空き家の鍵をお借りして、お客さん宅をあとにしたそうです。
翌日の夕方、Cさんは後輩の営業マンを連れて、空き家を見に行きました。
空き家になって半年くらいと聞いていました。しかし、庭は雑草が伸び放題で、雨戸を締め切った室内も少し埃っぽい感じ。後輩くんはくしゃみを連発していました。
「ちょっと埃っぽいな。おい、お前は二階の雨戸を全部開けて来い」とCさんが後輩くんに指示し、後輩くんが二階へ続く階段に足をかけようとした…そのときでした!
ドタドタドタと大きな物音がしたかと思うと、二階から着衣が乱れた若い女の子と、同い年ぐらいのほぼ半裸に近い男の子が駆け下りてきました。
Cさんと後輩くんは度肝を抜かれました。そりゃそうです。誰もいないと思っていた空き家からいきなり二人の人間が現れたのですから。男の方は、歳・背格好こそ違いますが、映画『呪怨』に出てくるあの白塗りの男の子「としおくん」と同じ風体です。
男の子は、女の子の腕を引っ張りながら、固まっている後輩くんとCさんの間を走り抜け、後ろも振り向かず「すみませんでした。親父には黙っていてください!」とだけ叫び、手を繋いで玄関を飛び出しました。Cさんが振り返った時には、夕暮れ迫る住宅街に消えて行ったそうです。
あっけにとられたCさんと後輩くんでしたが、空き家で逢引き(死語)していた男の子が、お客さんの息子さんなのか判断がつきません。ひょっとしたら不法侵入者の可能性もあります。しかし、状況が状況だけに売主さんにどう報告したらいいやら困ってしまいました。
そして次の日、Cさんは販売価格の提案を行うために、再度お客さんのもとを訪れました。
昨日のことはおくびにも出さず、査定価格の提案を行っていると、息子さんが高校から帰ってきました。有名私立高校の制服に身を包み、思春期独特のムスッとした表情を浮かべながらリビングに入ってきた息子さんは間違いなくあの男の子でした。Cさんの姿を認めるなり、一瞬ギョッとしたものの、最高の(作り)笑顔で「こんばんは!前の家を売って下さるそうですね!色々と大変だとは思いますがくれぐれも宜しくお願いします!」と挨拶をしました。
この元気な挨拶にはお客さんもビックリされたようです。「息子があんなに大きな声で話す姿を久しぶりに見ましたよ。前の家を売ることにはずっと頑強に反対していたのに」と、首を傾げておられたようです。
Cさんは内心「それゃ…反対するよなぁ~。愛の巣が無くなるんだもの」と思いながらも、若い二人の話は武士の情けで売主さんには伝えませんでした。その後、空き家は無事売却できたそうです。
ちょっと埃っぽく、ちょっと甘酢っぱく、ちょっと困ったお話でした。
ちなみに、私の高校時代の恋愛は非常にプラトニックなものでした・・・たぶん。