転居後の不動産を売却すべきか否かは個々の事例により異なりますが、その判断を下す際の主な検討事項は以下のとおりです。
1.資産負債の全体像
自らの資産負債の全体像をみた際、極端に現預金額が少なくなったり借入金残高が多くなったりする場合は、転居後の物件を売却して現預金の積み増しと借入金残高の圧縮を図ることが望ましいでしょう。
2.値上がりの可能性
立地、グレード、話題性などの面から値上がりを期待できる場合は慌てて物件を売却せず、賃貸の可能性を探ることが賢明です。不動産会社へ支払う管理委託費、マンションの管理組合が徴収する管理費・修繕積立金、税金、借入金利息などを含む総費用を上回る賃料を得られる見込みがあれば、契約満了時に退去を求められる定期借家契約で貸すと良いでしょう。
3.再入居の可能性
転勤や子供の独立による家族構成の変化などから再び入居する可能性が想定されるのであれば、売却せずに定期借家契約で貸し出すことも考えられます。契約満了の際、確実に退去してもらいたい場合は、個人に直接貸すのではなく社宅ニーズのある企業と契約する手もあります。
4.築年数
一戸建てや住宅地の築浅マンションであれば、市場価格が大幅に低下する前に売ることも一案です。逆に築20年以上の一戸建てはほとんど土地の価値しか評価されないため、相場の推移を眺めながら売却時期を探ることも考えられます。マンションは古くても管理費や修繕積立金を負担しなければならないため、賃貸で利益が出る見込みがなければ早く売却すべきです。
5.再開発の可能性
都心・駅チカなどに立地する一戸建ての場合は、再開発計画が持ち上がるまで寝かせておく手もあります。計画が本格化して地上げが始まれば高値で売れるかもしれません。近隣地区で再開発が行われている(計画がある)場合は、その可能性が高いと考えられます。
6.相続資産の多寡
不動産の相続税は現預金より少なくなります。現預金は相続資産額がそのまま相続税評価額となります。つまり1億円相続すれば1億円に対し課税されます。それに対し不動産は時価より低い路線価(土地)や固定資産評価額(建物・附属設備)を基に相続税評価額を算定します。相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)を超える多額の資産を有する人は、不動産のまま資産を残せば相続人の納税負担を減らせます。
不動産は住むためのものであると同時に資産運用の手段でもあります。転居後の不動産売却の適否は、資産運用の観点から検討することが大切です。