山の中にポツンと建つ一軒家は兎も角として、街中にある住宅の眺望は年月とともに変化していきます。とくに再開発地域や都心部の場合、毎年のように近隣に新築物件が建ちます。そうした中で、物件売却時に眺望が変化する可能性をどこまで買手へ伝えるべきか悩む人もいるのではないでしょうか。

 

不動産会社の担当者である宅地建物取引士は、取引対象物件の重要事項に関し買手に書面を交付して説明する義務を負っています。都市計画法、景観法などにより当該物件が規制される内容は説明事項に含まれています。その一方で当該物件の眺望に影響を及ぼす可能性のある建築計画などに対する明確な説明義務はありません(宅地建物取引業法第35条第1項第2号、宅地建物取引業法施行令第3条第1項)。

 

ただし宅地建物取引業法第35条第1項では、「少なくとも次に掲げる事項について」と記した上で具体的な説明事項を掲げています。また購入者の利益保護は同法第1条の目的にも示されています。このため取引判断に重大な影響を及ぼすと考えられる事項については、眺望に限らず全て説明しないと義務違反と指摘さる可能性があります。

 

過去には新築マンションの販売に際し、宅地建物取引士がベランダから電柱、支柱、送電線が見えることを説明しなかった点を争点とする裁判で損害賠償請求を認める判断が示されたこともあります(福岡地裁平成18年2月2日判決)。

 

こうしたことも踏まえ、眺望変化、騒音、交通量の増加などの影響を及ぼす可能性のある近隣情報については、全て告知することが望ましいと考えられます。再開発組合の設立、再開発計画の策定、建築確認申請の承認などの情報は物件が所在する地方自治体に尋ねれば確認できます。

 

通常こうした情報は売買仲介を依頼した不動産会社が行うため売主が調査する必要はありません。もっとも調査・説明が不十分であれば取引のキャンセルや売買代金の減額請求の根拠となりかねないため、売主も地方自治体のウェブサイトなどを閲覧して再開発計画の進捗状況を確認する程度のことは行うべきでしょう。

 

とくにタワーマンションの場合は眺望が物件価値に大きな影響を及ぼすため、しっかりした対応が求められます。

 
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