毎週金曜日配信、「人生の上がり3ホール、賢いシニアのお金の話」
お金・資産運用のプロ 中村伸一さんが「ヤングシニア」向けの資産運用や、老後資金に関してのノウハウを、ゴルフ要素を交えながら伝授します。
最終回の今回は、老後の生活をどうやって有意義に過ごしていくか、その考え方をまとめています。(リビンマガジンBiz編集部)
(画像=写真AC)
第0打:コースマネージメント 平均余命とは
今回のコースも、残すところあと1ホールです。368ヤードと距離は短めですが、グリーンまで上りが続きます。一筋縄ではいきません。また、フェアウェイ右側はOBなので気も抜けません。
この連載では、1ホール1つのテーマで、ヤングシニア世代が直面するであろう、お金にまつわるお話を紹介してきました。
今回は、その総集編として、今60歳前後の方々が残りの人生をどやって有意義に過ごしていくか、その考え方をまとめていきます。
皆さんは、平均寿命と平均余命の違いはご存知ですか。
よく、「日本人の平均寿命は、世界第1位になった」といったニュースを見ると思います。
平均寿命とは、その年に生まれた0歳児に平均余命のことです。
平均余命とは、ある年齢になったときに、あと何年生きるかを表した期待値の平均です。厚生労働省発表の最新の簡易生命表によると、2016年の平均寿命は、男80.98歳、女87.14歳でした。60歳の平均余命は男23.67年、女28.91年でした。
第1打:今後をいかに生きるか
右からの風、3番ウッドでフルスイングしたAさん、球はフェアウェイ右側のラフに入りました。ひやひやしましたがOBは免れました。飛距離は210ヤードでした。
上記したように、仮に今60歳の人は、男性はあと23年、女性はあと29年近く生きるのが統計から出ています。今の60歳と50年前の60歳とでは、見た目も、気持ちも、そして健康面でも全く異なります。無論、今の60歳の方が元気なのです。
まだまだやりたいことがたくさんあり、なかなか老けることができません。
そうなると、長い老後生活において、必要になってくるのがお金です。
定年退職などにより勤労収入がなくなった場合、公的年金か個人年金の収入がメインになります。それだけで生活できないときは、今までの貯金を取り崩します。老後生活では、できるだけ預金が底をつく日(キャッシュアウト)を先延ばしにすることが重要です。
お金を尽きないようにするためにできることは単純明快です。「収入を増やすか維持する」、「支出を減らす」「資産運用」をする、この3つだけです。
第2打:資産運用の本来の考え方
右のラフからピンまで残り158ヤードです。ラフが深いので、無理をせず8番アイアンでフェアウェイに出す作戦をとりました。飛距離は115ヤード、フェアウェイ左に止まりました。無理をしない作戦が功を奏したようです。
私は、「老後の資産運用は、絶対評価ではなく、相対評価」だと考えています。
資産運用のベンチマーク(基準となるもの)をインデックス指標といいます。運用商品は、そのインデックス指数との比較(相対評価)で考えるべきです。「買った時より値段が上がったから儲かった」「下がったから損した」と、いうわけではありません。
言い換えると、「偏差値で見ましょう」ということです。
皆さんは、受験を選ぶ際の目安を、自身の学力と学校の偏差値とを比べて決めていたと思います。
この考え方を資産運用にもあてはめます。
例えば、日本株を除く全世界の株式指数となるMSCI社のACWI(All Countries Worldwide Index)です。この10年で、トータルリターンは+4.5%となっています。これはリーマンショックの時期も含めてなので、あまり高めの数字ではありません。それでも、10年前100万円で運用を始めたら155万円になる計算です。
この、ACWIが偏差値50だとします。すると、皆さんが選択する、もしくはすでに購入した金融商品(株式)が、それより上回れば51~70に偏差値が上がり、下回れば49~35へ偏差値が下がったということになります。
また、資産運用は長期で考えることも重要です。できれば、10年はそのままで、毎月同額を積立していく「ドルコスト平均法」を組み合わせることが、資産運用を成功させるコツなのです。
第3打:ライフシフトと働き方改革
第3打はピンまで残り43ヤードです。ピンとの間にバンカーがあり、心理的な圧迫があります。58度のウェッジで高く打ち出そうとして、強めのインパクトとなり、ピンを5mオーバーしてしまいました。
9番ホールでも紹介しましたが、ロンドン大学のグラットン教授が書いた『Life Shift』という本がベストセラーになっています。
これは、「少子高齢化が進む先進国には、今までのライフスケジュールは当てはまらず、新たなアクションが必要になる」といった内容の書籍です。
我々ヤングシニア世代は、公的年金だけでは老後も生活レベルを維持するのは難しいです。そのためには「何らかのアクションを起こさなければならない」ということが提言されています。
会社勤めだった人が、定年後も収入を得るためにはどうしたら良いのでしょうか。
その答えの一つが、複線化した収入を得ることです。例えば、資産運用として収益不動産を始める動機は、この解の一つかもしれません。
また、今まで働いてきたことをベースに起業するのも考え方でしょう。0から立ち上げるのが大変だとすれば、「会社を買う」ことも1つの選択肢です。今は後継者不足で会社を畳もうとする方がたくさんいらっしゃいます。もしご自身の経験とその会社がマッチするのなら、その会社のオーナーになるのも方法かもしれません。
第4打:支出を減らす
残り5mのロングパットが残りました。Aさんは、スライスラインを丁寧に読みましたが、上りのラインでしたので、球はショートし、1mの距離が残りました。
老後、お金に困らないもう1つの方法が、「支出を減らす」ことです。
例えば、居住用資産の買い替えです。
お子さんが独立し、部屋数や広さが必要なくなった場合、駅近のマンションなどに買い替えします。そして、売却益を今後の生活費に充てます。また、夫婦二人様の場合、リバースモーゲージを活用するなども有効かもしれません。
自家用車を持っている家庭では、都心では駐車場代など維持費がかさみます。カーシェアリングを使ってみるなどして、固定費用を削減することを考えてみるのも必要かと思います。
(画像=写真AC)
第5打:いかに生きるかは、あなた次第
私も含めたヤングシニア世代の方々が、今後どのように暮らしをエンジョイしていくかは、皆さんの考え方次第だと思います。
そのためのヒントを、18回に渡って書きました。
しかし、ご自身やご家族だけでは、なかなかその考え方がまとまらないケースがあるかもしれません。その時は周りのFPや専門家に意見を聞いてみることも、1つの方法だと思います。私も、その時は微力ながら皆様のお手伝いをさせていただきます。
残り1mのボギーパット。Aさんはしっかりフックラインを読んで、沈め、ボギーとしました。
では、A さんは18ホールを一体いくつで回ったのでしょうか。
答えは74でした。
あー、一度でいいからこんなスコアで回りたい…。
【お知らせ】
今回で「人生の上がり3ホール、賢いシニアのお金の話」は終了です。
ご愛読いただきありがとうございました。