毎週金曜日配信、「人生の上がり3ホール、賢いシニアのお金の話」
お金・資産運用のプロ 中村伸一さんが「ヤングシニア」向けの資産運用や、老後資金に関してのノウハウを、ゴルフ要素を交えながら伝授します。
今回は、現在にわかに利用者が増えている「リバースモーゲージ」のお話です。(リビンマガジンBiz編集部)
第0打:コースマネージメント リバースモーゲージとは
16番ホールは、405ヤードパー4のミドルホールです。打ち下ろしですが、フェアウェイは狭いホールです。
リバースモーゲージとは、日本語に直訳すると「逆抵当権付融資」です。わかりやすく言うと、「最初にお金を借りて後にまとめて自宅を返済原資にする」というものです。自宅を「抵当」に入れることで定期的に生活費などの「融資」を受ける仕組みです。通常のローンは一括で受け取った融資額を返済すると残高が減るのに対して、定期的に受け取った分の残高が増えて行くために「リバース=逆」と言われています。自宅を手放すことなく老後の生活資金等を受け取ることができますが、利用者が死亡した後に、相続人がその自宅を売却して一括返済することになります。実際は売却しないで相続人が手元資金で一括返済することも多いようです。
(画像=Pixabay)
第1打:リバースモーゲージの現状
ほぼストレートで打ちおろしのため、飛距離は稼ぎたいところです。Aさんは、迷わずドライバーを選び、思い切って振りました。少しスライス回転でしたが、フェアウェイ右230ヤードのところまで飛びました。
リバースモーゲージは、厚生労働省が2003年度に創設した『不動産担保型生活資金』や2007年度に創設した『要保護世帯向け不動産担保生活資金』でも活用され、自宅を所有しているが生活資金が不足しているという世帯向けなどに利用されています(事業主体は都道府県社会福祉協議会)。したがって、当初は社会福祉の側面が大きかったようです。
民間金融機関では3大メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)で商品がそろっている他、信託銀行や地銀・信金でも取り扱いが徐々に増えています。2001年からいち早く取り扱いを始めた東京スター銀行では、2015年時点で4000人を超える利用実績があります。
また、住宅メーカーの旭化成ホームズは、2013年から東京スター銀行と提携し、リフォーム資金、住宅ローンからの借換に対応したリバースモーゲージを設けています。
第2打:リバースモーゲージの融資要件
一口にリバースモーゲージと言っても、その融資要件は各金融機関によって大きく異なっています。そのため、利用を検討する際は十分に比較しなければなりません。
1.利用者の年齢(満55歳以上など)
2.対象となる住宅(土地付き一戸建のみか分譲マンションも可能か)
3.住宅の所在地(都市圏に限定する金融機関がほとんどです)
4.資金使途(生活費に限る・リフォームなど住関連資金に限る・使途問わず)
最も重要な要件は「担保評価額」です。貸し出す側としては、万が一の時の担保割れだけは避けたいところです。そこで、各銀行とも厳しい評価をだします。
また融資の方法も、一括でまとめて受ける方法、根抵当権を設定して極度額まで都度受ける方法、定額を毎月受ける方法などがあります。さらに返済方法も毎月の返済がないタイプ、利息だけ毎月返済するタイプなどがあります。
残りピンまで175ヤード、アドレスをしっかりとったAさん、26度のユーティリティーを使って打った球は、きれいな放物線を描き、ピンまで5mのところに落ちました。
第3打:リバースモーゲージの普及に向けて
残り、5mのバーディーパット、Aさんはスライスラインを慎重に読みましたが、パンチが入ってしまい、1mオーバーしてしまいました。
現在、様々な金融機関がリバースモーゲージ取り扱っています。しかし、諸外国と比較して、まだまだ圧倒的に普及していないのが現状です。日本では、例えば木造住宅で築後20年すると減価償却され評価がゼロと評価されるため、確実な担保を土地以外に見込めないという事情があるためだと考えられます。建物を適切にメンテナンスすることで数十年以上価値が保たれる欧米では、むしろ建物が優良な担保と考えられるのでリバースモーゲージを利用しやすいのです。
現在、日本は住宅政策について「フロー(新築)からストック(中古)重視」へと転換を図っています。建物の評価方法について2015年5月に建物の不動産鑑定評価基準の見直しを行った他、7月には不動産業者が利用する「既存住宅価格査定マニュアル」を改訂して、建物の適正な評価を求めることに着手しました。
また2016年3月には住生活基本法を改正し、「若年・子育て世帯や高齢者世帯が安心して暮らせる住生活の実現」と「既存住宅・リフォーム市場の規模倍増」を目指すために必要なファイナンスの整備を打ち出しました。
住宅の評価には、日本ならではの特殊性があるとはいえ、新築偏重の住宅政策を見直すことは、空き家対策の上からも、必須のこととなるでしょう。
(画像=Pixabay)
第4打:リバースモーゲージの今後の可能性
住宅金融支援機構は、2009年6月に商品化していたリバースモーゲージ型住宅ローンに力を入れ始めました。
これは、民間金融機関と提携し、満60歳以上の利用者が自宅を担保提供して自身の住宅の建設・購入・リフォーム等の資金や、子世帯の住宅取得資金、サービス付き高齢者賃貸住宅への入居一時金等に充てる融資を受けることができます。また、既存の住宅ローンの借り換えにも利用することができます。
返済は毎月の利息のみで、利用者死亡後に相続人が自宅を売却して一括返済します。万一この一括返済が履行されなかった場合は、機構が住宅融資保険契約に基づいて金融機関に保険金を支払います。
また、リバースモーゲージの先駆者である東京スター銀行も、いろいろな角度から商品性の充実を図っています。
このように、今後は国の住政策の転換により、リバースモーゲージがより利用しやすい環境が整い、商品も多様化することが期待されます。現状では、使い勝手の面などで、まだまだですが、FPの立場から考えると、クライアントのファイナンシャル・プランニングの選択肢として注目しておきたいと思います。
1mのパーパット。Aさんは慎重に沈めました。