毎週金曜日配信、「人生の上がり3ホール、賢いシニアのお金の話」
お金・資産運用のプロ 中村伸一さんが「ヤングシニア」向けの資産運用や、老後資金に関してのノウハウを、ゴルフ要素を交えながら伝授します。

第1回目の今回は、老後資金を捻出するための「住み替え」です。どういったトラブルが発生するのでしょうか。また、注意点は何なのでしょうか(リビンマガジンBiz編集部)。

昭和25年から昭和40年生まれの方々は、団塊の世代をすぐ下から見上げていました。また、昭和の後半から今までの社会を牽引してきた世代でもあります。かくいう私もその世代の仲間であり、最近引退後の生活のあり方を考えることが多くなってきました。

今回は、「ヤングシニアのための自宅住み替え大作戦」と題し、今皆さんがお住いの自宅をどうしていくか、お子様が巣立っていった(いく)後の自宅をどうするかを考えていきます。

(写真=Pixabay)

第0打:コースマネージメント 今の60歳はあといくつまで生きるか、老後必要なお金はいくら?

まず、我々の今後を予測することから始めてみましょう。ゴルフでは打つ前のコースマネージメントが重要です。グリーンから逆算していくことで、確実にオンする番手を考え、大たたきリスクを回避することができます。

皆さんは、「平均寿命」と「平均余命」は異なるということをご存じですか。
平均寿命とは、その年に生まれた新生児がいくつまで生きるか、ということを表したものです。一方、平均余命は、今の年齢の方からあと何年生きるか、ということを統計上表したものです。厚生労働省が発表した最新の平成27年簡易生命表によると、60歳の平均余命は男性23.55年、女性28.83年でした。女性は男性よりも5年以上も長生きです。ご夫婦が同じ年齢の場合、ご主人が亡くなった後、約5年女性のおひとりさまの時間がある、ということが分かります。これを踏まえて、老後資金(60歳以降かかる費用を老後資金と定義する)は、一体いくら必要なのかを考えてみましょう。
※わかりやすくするために、今後30年は著しい物価高騰はないものと仮定します。
それを考える際、生命保険文化センターが発表した、『老後の生活はいくら必要と考える』という統計データが役立ちます。
この結果によると、夫婦2人が老後生活を送るために必要な最低日常生活費は、月額平均22万円です。

この数字をもとに老後、最低日常生活を営むのに必要な資金を計算してみましょう。
22万(ひと月)×12(か月)×23.55(60才男性の平均余命)=6,217万円となります。女性の場合は、さらにおひとりさまの期間が足されますので、
17万(ひと月のおおよそ生活費 夫婦の場合の75%と仮定)×12(か月)×5年(おひとりさまの平均期間)=約1,000万円
トータルで約7,200万円の老後資金が必要だということです。これで大まかな老後の必要資金を計算することができました。
では、この日常生活費の中に住宅費は入っているのでしょうか、いないのでしょうか。実は、国の年金水準には、家賃を織り込んでいると考えるのには無理があります。正式に政府が発表したわけではありませんが、住宅ローン控除制度など各種のインセンティブを通じて持ち家制度に導こうとする意図は見え隠れしています。言い換えますと、国の老後資金の設計図には、持ち家で家賃を払う必要がない前提で作られているのです。

さて、これを踏まえて、早速1番ホールに向かいましょう。


第1打:今の家を売って、老後資金を捻出しよう!

Aさんは、25年前に千葉県の私鉄沿線の駅から徒歩15分のところに、自宅があります。購入にあたって、資金は30年の住宅ローンから工面しました。現役時代に必死で繰り上げ返済を行ったので、ローンは払い終わっています。このタイミングで子供は独立していましたが、老後の生活費を考えると不安です。現金を得る目的で自宅を売却しようと考えました。自宅は、50坪の木造築25年です。またその資金で、駅近で新築2LDKのマンションに住みかえようと考え、不動産会社に行くことを決めました。

この決断は、ドライバーでのティーショットです。肩幅ぐらいに足を開き、緩やかなアドレスから一気に振り抜きます。フェースがボールをガチっと捉えてナイスショット!ボールはぐんぐんと伸び220ヤードまで飛びました。フェアウェイ少し右ですが、2打目も打ちやすいところです。

第2打:郊外の一戸建ては高く売れるのか?

Aさんは家の近くの不動産屋に行き、住み替えをしたいという計画を伝えました。自宅の希望売却価格は3,700万円。購入した時よりも安い金額です。しかし、不動産屋から返ってきた査定額は3,200万円でした。希望価格より500万円も低い金額でした。それを聞いたAさんはがっくりと肩を落としました。しかし、老後資金を確保するためには、家を売らなければなりません。Aさんは苦渋の末、自宅を手放すことに決めました。

滑りだしは好調だったコース運びでしたが、2打目5番ウッドでピン近くまで寄せようとチャレンジしたところ、ダフッてしまい100Yほどしか飛びませんでした。

実は、こういった駅から15分のところに戸建てマイホームを持っている方(特に関東近郊の物件)は、かなり売りづらい状況が続いています。購入当時は、土地付き一戸建ては夢のマイホームでしたが、現状、駅から遠い物件は、かなり低い査定額しか出ない場合が多いようです。

第3打:果たして自宅は売れるのか?

冷静を保ちつつ、リカバリ―ショットとしてアプローチウェッジを持ち、3オン狙いでフルスイングします。

自宅を売りに出すと幸いなことに、買い手がすぐに見つかりました。これは、依頼した不動産会社の担当者が優秀だったこともさることながら、日ごろからAさんの奥さんが家を清潔に保っており、内覧者に対しても良い心象を与えたことも功を奏しました。売却価格は値引き交渉もなく3,200万円。無事に売買契約を済ませることができました。

ピンまで約7メートルに3オンしました。

暗雲かかったコースにも奇麗な虹が (写真=リビンマガジンBiz編集部)

第4打:住み替え先は新築?中古?

自宅を売りに出したときに、妻とよく話し合ったAさんは、考え方を少し変えていました。実際の売却価格が希望金額より低かったことで、当初の駅近新築のマンションではとても手が出ないということが分かりました。そこで、同じ沿線の2LDKの築30年の中古マンションを購入することに変更しました。壁紙、水廻りに若干のリフォームを行い、総額は2300万円。諸経費として約100万円かかったので、売却金額と購入金額との差800万円が老後資金として活用できることが分かりました。

2ボールパターでカップを狙い見事にカップイン。パー。

何とかパーで抑えられた理由は、当初の新築マンション購入の計画を、中古物件に変更した、という戦略です。そして、早めの売却決断ができたこと。住み替え先が中古マンションだったこと、などがあります。戦略を決めて、早目に動くことが、シニアの住み替えの成功の秘訣ではないでしょうか。

 
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