こんにちは、弁護士の岩﨑孝太郎です。
今回は、不動産投資を始めていくにあたって、一番のリスクであるや家賃滞納に対する自力救済の禁止についてお話ししたいと思います。
1 自力救済の禁止
昨今は、不動産賃貸借契約を締結する場合、家賃保証会社を利用することが多くなっていると思います。もっとも、家賃保証会社の利用には審査もあり、必ずしも大家として利用できるとは限りません。
そのため、家賃の滞納リスクを見極めて上で、賃借人の審査を適切に行っていくことがまず必要です。とはいえ、賃借人の事情も時の経過とともに変化していきますので、家賃滞納が発生する場合もあるかと思います。
そうなった場合、家賃の滞納は不動産投資の大きな敵であり、大家としては勢いすぐに追い出したくなるものです。建物明渡を正規の手続きを踏んで行っていく場合は、非常に時間も費用もかかります。
これが大家にとって、大きな落とし穴になります。具体的にどのような責任が生じてしまうのか、お話しします。
大前提として、家賃滞納に対し、仮に契約書等で鍵交換を行うことや、居住内にある賃借人所有物を勝手に搬出することの許諾を記載してあったとしても、公序良俗違反として法律的には無効な契約となります。
2 自力救済のリスク
そして自力救済を実行した場合、最悪の場合は、住居侵入罪(刑法130条)、窃盗罪(刑法235条)、器物損壊罪(刑法261条)といった刑事事件に問われる恐れがあります。
さらに、損害賠償義務を原則的に負います。具体的には、共益費等含んだ家賃4万3500円の物件にて、34日間締め出したケース(大阪簡裁平成21年5月22日)では、損害として、①締め出されたことの家賃相当額4万0687円、②1日1500円の出費として、5万1000円、③慰謝料50万円、④弁護士費用6万円、の合計65万1687円が認定されています。
物件の家賃等が4万3500円に対し、損害額として65万の損害が認定されると、およそ1年3ヵ月分の収入が奪われることになります。
家賃がもっと高額であったり、居住内の動産類を勝手に処分した裁判例では、過去の裁判例では、鍵を交換した事例で数十万円以上、家財や衣類等を廃棄した事案だと100万円から300万円の事例も出ています。
このように経済的合理性だけ考えてみても、自力救済が必ずしも得策ではないことが分かるかと思います。
3 弁護士も陥る罠
誰しも、特に専門家であれば、自力救済が許されないことは百も承知しております。ところが、この自力救済に関連して処分を受けている弁護士も多数います。
具体的には、「少なくとも上記建物を第三者が占有していることを認識しながら、その入り口の鍵を交換するよう助言した」、「鍵業者を紹介し再三現場に赴き懲戒請求者と直接対応する等してA社が上記建物の鍵の付け替え等の占有侵奪行為をすることに加担した。」というような行為が過去にはあります。
4 自力救済との絶縁
頭では分かっていても、依頼者の焦る気持ちに同調したり根負けしたりで、弁護士自身が自力救済に関わってしまうことがあります。
目の前の障害を手っ取り早く除去できるという誘惑が自力救済にはあるのかもしれません。
不動産投資を行っていく上で、家賃滞納という局面に出くわすことがあるかもしれません。そのときに、焦っていては、後で振り返ると結局損をする行いをしてしまいかねません。
冷静な気持ちを持って、対処することを忘れないでください。
対応に苦慮する場合には、専門家に相談することをお勧めいたします。