地域や国によって様々な習慣や風習が存在し、文化や生活と密接なかかわりを持っている。「習慣は自然の若し(ごとし)」だ。こと生活の基盤となる住宅については、世界各国で多くの習慣がある。住宅でその国がわかる、といっても、過言はない。海外の住宅に関する習慣・風習について、世界4ヶ国に10年以上滞在したファイナンシャル・プランナーの岩永真理氏に聞いた。(リビンマガジンBiz)

ロンドンの街並み (写真=Pixabay)

ヨーロッパ

ヨーロッパは日本とは文化・歴史・人種が大きく異なるため、最も驚くことが多い地域といえます。
まず不便を感じるのが、ビン、缶、紙などのリサイクル系ごみは、家まで回収に来てくれないこと。回収ボックスが市営の駐車場など公共施設にあり、通常はそこまで各自で捨てに行きます。最近では、買ったところでビンのデポジットを取られ、空きビンを返却すると支払ったデポジットが返ってくるシステムのところもあります。行政にとっては効率的ですが、市民にとっては少し面倒です。車がないと捨てに行くのも大変。

また、一般的に物音に対して厳しい風潮があります。それにも関わらず、防音対策されているマンションはほぼありません。マンション上階のトイレやシャワー等、水を流す音はほとんど聞こえます。西欧人の入浴は湯船に入るというより、シャワーで済ませる人が大半です。しかも朝シャワー派が多い。日本人のように夜ゆっくり湯につかることはまずありません。深夜風呂など西欧ではもってのほかです。
私が住んだルクセンブルクのマンションでも、日本人のビジネスマンが、夜の騒音が原因で翌朝下階住人から、厳しいお叱りをいただいていることがよくありました。怒りの張り紙を一階エントランスに張られてしまうのです、こういう場面は何度も目撃しました。

■ロンドンは北向き・小さい窓の家が人気?
ロンドンは北向き、または窓の小さい家やマンションが好まれます。なぜなら、日差しで家具が痛むのを防げるからです。イギリスの家具は、マホガニーなどの重厚な木製のものが多いので、大切に扱う文化があります。日当たり・風通しを考慮して南向きを好む日本とは真逆です。イギリスの気候は日本と比べて乾燥しているので、風通しに配慮する必要が少ないことは確かです。ロンドンの緯度は51度、東京の35度と比べるとかなり北にあることがわかります。つまり冬は寒く暖房費がかさみます。(熱が逃げないように、機密性も高いのです。)

アメリカ

■ニューヨークのクリスマスは少し憂鬱
ニューヨークのクリスマスが華やかなのは、世界的にも有名です。デパートなどだけでなく、マンションも競ってクリスマスツリーを飾り付けます。本当に華やかで盛大なイベントで、この時期にたくさんの観光客が街を訪れます。
しかし、住民にとっては憂鬱なことがあります。それは、マンションで働くベルボーイや、ドアマン、清掃員などの、すべての名前が書かれたクリスマスカードが届くこと。なぜなら、このクリスマスカードは、名前がある人それぞれに「金一封を包んでください」という暗黙の請求書だからです。一人あたり30ドルずつ、10人に包めば300ドル(3万円程度)の出費でバカになりません。
強制ではありませんが、その後一年間の友好的なサービスを期待して、顔と部屋番号をアピールしつつ手渡しで贈ります。チップの慣習のある国なので、住居費の一部と割り切るより仕方ありません。日本ではサービスの質も良いうえに、それが追加料金なしのタダであることのありがたみを外国では思い知らされます。

アジア

アジアは民族的にも日本と一番近いので、言葉がわからなくても比較的気持ちの通じやすい地域です。ただし、防災の概念が乏しいところが、時として問題となります。

上海の高層マンション (写真=pixabay)

■上海
高層マンションが立ち並ぶ大都会。私が住んでいたマンションも高層マンションで、27階ベランダからの眺めは最高です。でも、このベランダ、日本のように火災の時に打ち破れる壁はついてなく、隣家ともつながっていません。コンクリートで上下左右が固められた完全なる独立空間です。下に降りる避難ハシゴもついていません。メゾネットタイプのマンションなら、上階に出口は一切ありません。
消防車両もさすがに、27階までは届かないでしょう。一階にある玄関が唯一の出口です。
オール電化のマンションでしたが、万一「玄関から逃げられない火災が起きたらアウト」という恐怖と隣り合わせの住まいでした。

■シンガポール
国土が狭いので、こちらも高層住宅が主流です。一般人は公団住宅に住み、富裕層や外国人はコンドミニアムと呼ばれるマンションに住むことが多いです。
コンドミニアムにはベランダがありますが、畳一畳程度の小さなものがほとんどです。
上海同様、独立空間、避難ハシゴなしです。しかもこちらは、ガラスパネルの厚さが薄く、手すり幅はほんの12センチ程度、高さも1メートル20センチ程度、大人がちょっと体を乗り出すと、落下してしまう恐れがあります。
我々の留守中に家政婦がベランダ(28階でした)掃除をしていたところ、運悪く扉が閉まって、オートロックがかかってしましました。ベランダに取り残された家政婦は必死で大声を出して助けを呼びました。幸いにして、下階の人が気付いて管理室に電話をしてくれたため、私たちに連絡が入り、急いで帰宅して中から扉を開けることができました。
32度の炎天下での出来事です。あと数時間、救出が遅ければ熱中症などになっていたかもしれません。

不動産の価値

日本は一般的に、新築が好まれます。中古と新築の物件が、似たような立地に同じくらいの広さであれば、どちらも同じ価格であった場合、多くの人が新築を選ぶでしょう。
日本に限らず、アジア地域では、新築物件を好む傾向が強いです。建築技術や設備の進歩などが背景にあると思います。
アメリカでもスクラップアンドビルド、つまり古くなった物件は全部壊して、また一から立て直すことが一般的には多いでしょう。
つまり、「新しい=良い」という風潮があります。

ところが、ヨーロッパでは逆の概念が存在します。
「古い=値打ちがある」「その時代を象徴する」という考え方です。
ですから、できるだけ現存する形を残し、機能のみを新しく便利にすることが好まれます。「リファービッシュ」磨きなおす、改装するといった方法が、最も一般的なのです。
歴史的価値を残しつつ、最新の便利さを融合させようというわけです。

世界的観光名所のパリ・ルーブル美術館にも、その考えがみてとれます。かつての宮殿の優雅な空間は残しつつ、快適な空調や機能的なコンピュータ制御などが導入されています。一見すると昔の宮殿ですが、中はハイテク空間なのです。更に機能的で現代的なガラスのピラミッドとも、見事に調和し改装されました。古いものを残しつつ、最新の設備で快適さも享受する。ヨーロッパが建物にたいして考えること、その象徴のような建造物かもしれません。

また、ヨーロッパには数多くの街で、歴史ある街並みを保全するための取り組みがあります。新しく建てる建物には、高さや、屋根や壁の色、材質など、厳しく規定しているところがあります。

ヨーロッパでは、休日には多くのアンティーク市がたちます。そのアンティーク好きからも、ヨーロッパ人の古いものを尊ぶ姿勢がうかがえます。今ではもう手に入らない絶版の書物と出会うのに似た感覚なのかもしれません。

古いものに価値を見出す文化的背景に加えて、西欧では地震がなく、建築資材が耐久性の高い石やレンガで作られていることも関係があるでしょう。

ロンドンでは、100年以上経った建物は、賃貸であっても価値が上がり、プレミアムがつくのにはこうした発想や概念があるからです。

まとめ

日本は概して治安がよいので、鍵をかけずに外出する地域もあると聞きます。一方、外国の家はオートロックがほとんどです。自分で自分を締め出さないようもしつつ、自己防衛が必須です。
締め出した際の多くは、専門業者を呼び、物理的に鍵を壊して新しいものに付け替えます。時間もお金(一回約1万円以上)もかかるので、気を付けなければいけません。

翻って、海外から日本の住宅をみてみると、気候や風土にあうよう工夫されている部分がたくさんあることがわかります。外国人訪問者が増え、社会も多様化している今の日本。日本住宅古来の良さを十分に理解しつつ、外国住宅の一風変わった概念を受け入れる懐の深さも備われば、日本の住宅環境も更に良くなるのではないでしょうか。

 
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