海外進出するハウスメーカーが相次いでいる。今年、業界第2位の積水ハウスは、2020年1月期を最終年度とする形成計画を発表。18年1月期からの3年で海外事業に1兆円強を投じる。このように、海外事業が活況を見せている中で、かたや日本の不動産市場の今後を悲観する世論があるのも否めない。自身も海外に事業を展開しようと計画を進めている磯脇FP事務所 磯脇賢二代表に海外進出するハウスメーカーについて、また海外進出の難しさについて聞いた(リビンマガジンBiz編集部)。
(画像=写真AC)
2017年6月6日の日経新聞朝刊に見出しが躍りました。
■大和ハウス工業、米賃貸事業2.5倍に まずシアトルで700戸
「大和ハウス工業は米国で管理する賃貸住宅を今後3年をめどに現状の2.5倍の5千戸に増やす。2019年夏にシアトル近郊で700戸弱の物件の運用を始め、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市への進出も目指す。戸建て住宅の販売増にもつなげ、米国での売上高を1千億円と海外事業の中軸に育てる。」
こうしたニュースが増えてきました。日本のハウスメーカーも、海外で戦える力がついたと喜ぶ声がある一方で、「日本の市場に見切りをつけた」という疑念の声もあり、反応は様々です。
後者を裏付けるわけではありませんが、野村総合研究所レポート『2025年の住宅市場』によれば、国内新築住宅市場は、新設住宅着工戸数の100万戸割れが続き、10年後には「60万戸時代」の到来を予測しています。これは、今後東日本大震災のような災害からの復旧になど特別な需要がない限り、新設住宅着工戸数が大きく増えることはないということです。国内新築住宅市場を取り巻く環境は非常に厳しくなると予測しています。
この市場の推移について、新設住宅着工戸数に大きく影響を与える①移動人口②名目GDP成長率③平均築年数という要素から考えてみましょう。
『2025年の住宅市場』によれば、①移動人口は減少傾向にあり、2013年には約1,000万人台(出典:住民基本台帳人口移動報告)なのが、2025年には約790万人まで減少すると予測しています。実際、2016年の移動人口は約976万人(出典:住民基本台帳人口移動報告)です。②名目GDPは2013年と2025年を比較して微減で推移③平均築年数は2013年には22年であるのに対して、2025年には27年近くまで達すると予想しています。住宅メーカーにとっては、海外に新たな活路を見いだそうとするのは必然なのかもしれません。
現に、海外に出て成功した例があります。それは、住友林業 です。同社が豪州に進出したのは02年。08年には豪州大手住宅メーカー ヘンリー社との合弁会社を設立。戸建て住宅の販売を本格化しました。翌年にはヘンリー株の50%を取得、さらに13年に株式を1%追加取得し、ヘンリー社を連結子会社化します。2012年に1,820棟だった住宅販売数は、2016年に2,512棟と堅調に推移し、現在では成長事業の柱の1つとなっています。
では、他の大手住宅メーカーの海外進出が遅れた原因は何でしょう。それは、海外の気候や住宅文化と、日本製住宅製品とのすり合わせが困難であるという点ではないでしょうか 。確かに、日本製住宅は、防水性、断熱性、耐震性に優れています。しかし、すべての国でこのスペックが必要であるかといえばそうではありません。我が国は地震国でもあり高温多湿の気候だから必要なスペックであります。住友林業の海外進出成功の裏には、郷に入っては郷に従えではありませんが、豪州のヘンリー社との間で緻密な協議を行い、豪州の住宅文化と消費者ニーズを調べ上げたうえで、現地仕様の戸建て住宅を開発した成果といえます。
大和ハウス工業に戻ると、海外住宅市場への進出は、新たな成長を求めているからにほかなりません。例えば、アメリカの中古住宅流通は、日本よりもはるかに熟成されています。国土交通省が平成27年8月に発表した「中古住宅市場活性化・空き家活用促進・住み替え円滑化に向けた取組について」の報告によれば、全住宅流通量114.8万戸(中古流通16.8万戸+新築着工98万戸)に占める中古住宅の流通シェアは約14.7%(平成25年)、欧米諸国と比べると1/6程度と低い水準です。ちなみに同じ時期の先進各国の中古流通割合をみると、米国では83.1%(2014年)英国では88.0%(2012年)フランスでは68.4%(2012年)という結果です。日本の中古住宅流通のシェアは世界的に見ても圧倒的に低いのです。
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海外進出の難しさ
住宅メーカーが海外市場に成長を求めているのは、何も大手ばかりではありません。中小企業でも、海外住宅市場へ新たな成長を求めていく企業もあります。
私は、昨年9月から中小企業の若手経営者たちがカンボジアで活動をするための会社の共同出資者の一人として、経理部門を担当しています。新会社では、カンボジアにプレハブ式新規住宅事業ができないかを調査したことがあります。
すると、カンボジア政府に近い方からの情報で、政府が退役軍人用にプレハブユニット式の住宅の建築を600戸予定しているとの情報を得ました。それ以外にも政府主導による公務員住宅建設の話があり、どのようにして携わることができるのか調査のために人を派遣しました。
なぜプレハブユニットなのでしょうか。それは、優れた日本製住宅ではなく、すぐに建設が可能なものを政府が欲していたからです。しかし、我々は単にプレハブ住宅を売るのではなく、インフラ事業、特に東南アジア地域における富裕層、低所得者層向けの住宅の提案 (太陽光、蓄電池、LED、等の組みあわせ)をしたいと考えていました。カンボジアは、電気を外国から購入しているため、電気代が非常に高いからです。
ここ数年来の経済発展が著しいカンボジア。最近では綺麗なコンドミニアムも増えてきています。特に首都プノンペンは、庶民の住んでいる家とは対照的な、豪華な建物が増えてきています。高級コンドミニアムの多くの借り手が白人、日本人、韓国人などの現地駐在員がほとんどです。高級コンドミニアムには、プールやジムなどが付いています。もちろん新しい建物はまだごく一部です。多くのカンボジア国民が暮らす建物は、古い廃墟のようなものが大半を占めています。特に、廃墟同然の庶民用マンションは今にも崩れそうです。
この地域に、今までのノウハウを詰めた庶民のための 住宅の提案を行いたいと考えていました。しかし、人員の確保や、気候、資材を中国から運ぶ方法が思うようにいかなかかったため一時中止となってしまいました。このとき、海外進出の難しさを痛感しました。
住宅にはその国の文化が色濃く反映されます。それを無視して日本式住宅をそのまま持ち込んでもうまくいかないのです。この反省を生かし、地元の方々と協議を重ね、まずは、コンドミニアムにインフラ設備を設置することでより過ごしやすい住宅を提供したいと思います。
今後、わが国でも中古住宅流通の活性化に向けた取組がさらに進んでいくでしょう。しかし、国内新築住宅市場縮小への危機感がある以上、大手住宅メーカーが海外市場に成長の活路を求めるのは当然の成り行きといえます。人口減に伴う市場縮小は業界全体の共通認識です。競合他社が一斉に成長戦略の主力を物流・商業施設や賃貸住宅の建設、中古住宅リフォーム事業に向けるなか、さらなる取引拡大と、インフラ設備が充実しているという差別化を図る上でも、不動産流通が活発な海外に活路を見出すしかないのが実情だといえます。