相続税の増税により「これまで納税義務の無かった方」に対する相続増税の影響(その1)を記載してきました。
今回は、相続財産の評価については専門的な部分が多く、生活者にとってわかり難いため、相続財産が時価ベースで6,500万円との前提で相続財産の中身をもう少し詳しく、3つのケースに分けて考えてみましょう。
【前提条件】
法定相続人が配偶者と子ども二人の場合
基礎控除:3,600万円+300万円×3名=4,500万円
≪ケース1≫ 自宅不増産中心
自宅(時価):6,000万円(土地5,000万円・建物1,000万円)
現預金:500万円
相続財産は、自宅不動産が占めるというケースです。一般的に「相続税を納めるほどの財産なんて・・・」と心配になる代表例かもしれません。
自宅の評価は、土地部分を時価の2割引にした上で居住用の宅地等の評価の特例(※1)により一定の要件を満たせば土地部分の評価は8割引に圧縮評価できます。結果的に増税後においても基礎控除の範囲内に収まりますので節税策は不要となります。
他方、特例措置の一定の要件を満たせない場合には、土地部分を時価の2割引にしたとしても相続税の基礎控除の範囲には収まりませんので、はじめて一定の範囲内で節税策を検討することが視野に入ります。
なお、不動産の価格については、「時価も判らない」というケースが少なからずありますので、その場合には毎年市町村から送付される「固定資産税・都市計画税」の納付書に記載されている土地の評価額を参考にして一定の目安にすることが出来ます。また、建物の相続税評価額は固定資産税評価額が用いられますので、納付書記載の金額がそのまま評価額になります。
≪ケース2≫自社株中心
自宅(時価):6,000万円(土地5,000万円・建物1,000万円)
自社株:4,000万円
現預金:500万円
このケースは、中小企業のオーナーで売却不能な自社株の評価額が、相続財産の過半を占めるとした場合の例題です。
相続財産が自宅の特例措置(※1)適用される仮定して、評価額が土地と建物合わせて2,000万円になったとしても、自社株の評価額4,000万円と現預金500万円で6,500万円の相続財産があることになります。
中小企業の自社株を受け継ぐ後継者に対しては、要件が比較的厳格なものの特例措置(※2)があり自社株評価額のうち80%相当分が相続税の納税を猶予する制度があります。この特例制度が利用できれば、上記の例では自社株は800万円で評価されることになり、実質的には基礎控除の範囲内に収まることになり相続税は不要となります。
居住用宅地等の特例措置あるいは中小企業後継者に対する特例措置は、要件を満たせば同一の相続で適用できますが、いずれかあるいは両方の特例措置に該当しない場合は、税負担が発生することになりますので、一定の範囲内で節税策を検討することになります。
≪ケース3≫現預金または有価証券中心
自宅:賃貸居住のため相続財産の対象となる不動産はない
現預金:2,000万円
有価証券:4,500万円(上場株式および投資信託等)
このケースの場合では、概ね上記に記載した金額どおりの相続財産評価になります。そのため、前回のその1に記載した通り、法定相続人が配偶者と子ども二人であった場合、この例題においては、相続税200万円、配偶者への特例措置を適用すれば実質で100万円となりますので一定の範囲内で節税策を検討することになるでしょう。
とはいえ、このケースでは現預金・有価証券がほとんどであり、なけなしの現預金になり兼ねないケース1・2と比べれば、納税額が相続を受けた現預金などから拠出しやすいといえます。
ケース3の場合には、心情的には受け入れ難いのを承知の上で記載すれば、「天から降ってきた財産の一部である納税額は、最初から無かったもの」として、ことさらに節税対策などを実施せず、甘んじて納税するという選択肢もあるかもしれません。
3つのケースについて例題を記載しましたが、相続に関しては、十人十色の法定相続人数および保有財産の種類・金額が存在するため、案件に沿った個別具体的な対策が求められます。
とはいえ、前述の「これまで相続税を納める必要が無かった方」に対して、増税により納税が必要になる方々が増加することは事実です。
同時に相続税負担云々のみならず、自身の生活設計を優先しつつ、円満な相続準備の一環として「財産の棚卸し」をおこなってみてはいかがでしょう。
※1 国税庁:タックスアンサー「相続した事業の用や居住用の宅地等の評価の特例」
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4124.htm
※2 中小企業庁:非上場株式に係る相続税の納税猶予制度
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/g_book/h21/gb149.html