不動産投資が注目されています。書店では、不動産投資の指南書が並び、不動産投資セミナー参加者募集の広告を新聞・雑誌・ウェブサイトなどで目にする機会が増えています。関連書籍の売れ行き、不動産投資セミナーの集客なども好調のようです。
 
 
 2015年に改正された相続税の基礎控除額の引き下げ等の影響により、現預金等の資産を不動産変えることで「課税評価額を下げる」という節税期待での不動産投資が積極化しているのが原因の一つのようです。
 それを裏付けるように国土交通省の建築着工統計(注1)では、昨年1年間で418,543戸の貸家が新たに建設されており、前年対比10.5%の伸びを示し5年連続の増加となりました。
 
 
 関連して、不動産投資の積極化により不動産融資も拡大しています。一般的に不動産投資をおこなう場合は、投資資金をすべて現金で賄うには多額の資金が必要となるため、金融機関からの融資を受けるのが一般的です。
 その融資状況は、日本銀行の貸出先別貸出金(注2)によると2016年不動産融資額は12兆2806億円となり前年に比べて15.2%増加。
 うち3兆7860億円が個人の貸家業が占め、前年対比で21.1%の増加となり、不動産融資の約3割を占めています。
 
 
 金融機関にしてみれば、マイナス金利政策による資金の運用難から不動産融資に傾斜している事情が垣間みえます。
 不動産投資をおこなう大家さんにとっては、金利水準は短期プライムレート(最頻値)で1.475%、長期プライムレート0.95%(注3)と超低金利が継続しており、長・短プライムレートをベースにして決まるアパートローンの融資適用金利も3%程度と低い水準に止まっており、「不動産投資には追い風が吹いている」と考え、積極的になっている様子が伺えます。
 
 
 その一方で、少子高齢化が進行する社会情勢の中、空き家問題の懸念もあり「実需が伴うのか?」という懸念も拭えません。
 
 
 不動産投資の最大のリスクは、貸家が空室になるリスクです。貸家の借り手が毎月きちんと家賃を支払ってこそ成り立つビジネス。融資を受けた不動産投資であれば、空室だからといってローンの返済は「待ったなし」です。
 このようなことに陥らぬよう「サブリース契約で空室リスクを軽減させる」という手法を用いることも多いようですが、サブリース契約(いわゆる家賃保証)は2年~3年程度ごとに保証家賃の改定が一般的であり、新築(購入)時の家賃から徐々に低下していくことを考慮しておかないと、あとで「話が違う」と思惑と異なる結果に陥らないとも限りません。
 
 
 また、現状の超低金利が未来永劫続く訳もなく、金利の上昇リスクについても考慮しておく必要があり、「異次元」と称するほどの金融政策はいずれ出口、すなわち金利上昇に向うのは当然の成行きだと思います。
 今後1~2年の間は、出口に向う可能性は低いと思いますが、10年・20年、場合によっては30年と返済が続くローンは、このような状況下においては変動金利の借入は極力避け、金利上昇を見越して「固定金利」を選択、あるいは変更しておいたほうが無難でしょう。
 
 
 一般的に不動産投資は、ミドルリスク・ミドルリターンと紹介されることが多いようですが、不確実性すなわちリスクはそれなりに伴います。
 冒頭部分で紹介したとおり、貸家建設が拡大し不動産融資が積極化しているからこそ、安易な投資とならぬようにしっかりとリスク要因を理解した上で、事業計画を立案・実行するように心掛けたいものです。
 
 
注1 国土交通省:平成28年計 建築着工統計調査報告(平成29年1月31日公表)
http://www.mlit.go.jp/common/001170339.pdf
注2 日本銀行:2017年2月9日公表 貸出先別貸出金(2016年3月・6月・9月・12月の設備資金新規貸出額の合計額)
http://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/ldo/index.htm/
注3 日本銀行:長・短期プライムレート(主要行)の推移(2016年8月10日)
http://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/prime/prime.htm/
 

 
  • line
  • facebook
  • twitter
  • line
  • facebook
  • twitter

本サイトに掲載されているコンテンツ (記事・広告・デザイン等)に関する著作権は当社に帰属しており、他のホームページ・ブログ等に無断で転載・転用することを禁止します。引用する場合は、リンクを貼る等して当サイトからの引用であることを明らかにしてください。なお、当サイトへのリンクを貼ることは自由です。ご連絡の必要もありません。

このコラムニストのコラム

このコラムニストのコラム一覧へ