2016年1年間で訪日外国人旅行者数が過去最高の2,400万人を突破(※1)し、政府は2020年に4,000万人、30年には6,000万人を目標(※2)に掲げました。
マンションや戸建て住宅の空き部屋を旅行者に貸し出す「民泊」。
訪日外国人旅行者数の飛躍的増加に伴い、宿泊施設の不足を解消策として「民泊」の解禁を進める動きが加速しています。
そのような状況下において、一部報道にて「政府・自民党は、年間営業日数に上限を設けて規制を検討」と報じられました。
その背景には、ホテル・旅館といった既存の宿泊施設から「宿泊客の減少懸念」の声が上がり、さらに民泊営業をおこなう部屋の周辺住民から「騒音問題」、「ゴミ処理問題」、「治安不安懸念問題」など生活環境の悪化の恐れがあるため規制を求める声もあります。実際一部の民泊施設では、外国と日本の生活習慣の違いから、あるいは旅行者のマナー意識の欠如からトラブルに発展しているケースも散見されています。
他方、部屋を貸し出す側のオーナー(大家さん)サイドからしてみると「空室の有効活用」というビジネスチャンスが高まります。
また、外国人観光客サイドからみると、「比較的安価な宿泊」、「日本の日常生活体験」といった特徴も見逃せません。
これらの功罪に関して、「年間宿泊日数の規制」をしても問題解決が困難ではないかと疑念を覚えます。
訪日外国人旅行者数の増加目標(20年4,000万人、30年6,000万人)を掲げるのであれば、宿泊施設(客室数)の充足は、避けて通れません。
観光庁の宿泊旅行統計調査(※3)を見ると客室稼働率は、全国の旅館・リゾートホテル・ビジネスホテル・シティーホテル・簡易宿泊所をあわせた全体で平成23年の51.8%から平成27年には60.3%と上昇傾向となっており、27年から28年における各月調査においては、シティホテルにおいて軒並み80%を超える稼働率になっています。
客室稼働率は、とりわけ東京・大阪・名古屋・福岡などでは全体の数値でも70%以上と全国調査結果と比べて上昇傾向が顕著な状況となっています。
この調査は、訪日外国人旅行者に限らず国内旅行者が宿泊施設を利用した場合も含まれているため、外国人旅行者が宿泊施設の予約が取り難いということだけではなく、国内旅行者も予約が取り難い状況になってしなう事態になります。
だからこその民泊解禁とするのであれば、この規制は政策目標に逆行しかねません。
その一方で、周辺住民の生活環境の悪化の恐れに対して、無秩序に民泊を認めると「トラブルが後を絶たない」という懸念は拭えません。
民泊施設の宿泊者に対する最低限のルールを定め、民泊事業者は宿泊者の対して丁寧に説明をおこない、宿泊者からルール遵守の約束を取り付けた上で利用いただくことが求められます。
過度な規制に向かうと「民泊を使って不動産を有効活用しよう」という意欲を後退させてしまいかねません。
※ 1 日本政府観光局(JNTO)平成29年1月17日プレスリリースより
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/170117_monthly.pdf
※ 2 国土交通省:観光庁「明日の日本を支える観光ビジョン(概要)」より
http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics01_000205.html
※ 3 国土交通省:観光庁「宿泊旅行統計調査(報道発表資料)」
http://www.mlit.go.jp/common/001170733.pdf