二組のシニア世代のご夫婦から受けた「住み替え」のご相談事例。
目前の住み替えに対する資金プランはもちろんですが、
住み替えたその後にいつか訪れるのであろう要介護期をどのように暮らすのか、
それを踏まえて準備することをご提案いたしました。 その後篇です。
<お金では手に入れられない財産をつくる>
ところで、シニア期の住み替えは夫婦で価値観を分かち合えるのかに留意すべきです。
価値観の絶望的な乖離は、それが原因で、せっかくの住み替え生活が数年で頓挫した、
そういうケースも決して少なくはありません。
住み替えにあたり、とかく夫は妻と二人の暮らしだけを夢想しがちです。
ところが妻は必ずしもそうではない・・・。これ、ブラックジョークならよいのですが、
残念ながらこうした空気感は、ご相談の際に時折見受けられます。
得てして妻の中でプライオリティが高いのは、地域社会や友人知人等とのコミュニティ。
それは、現実の生活感に根差した視点なのでしょう。
夫婦ふたりだけで世の中生きていけるわけではないのですから、
長く築きあげてきたこの財産の恩恵を、その後も継続して受けられるのか、
はたまたゼロから築き直さねばならないのか。これは相当大きな問題です。
女性の方がそのことをよくご存じで、現実的な感覚をお持ちなのかもしれませんね。
ですが、このコミュニティは、要介護期を考える上でも、とても重要な財産です。
いうなれば生活のためのセーフティネットワークですらあります。
介護が必要になったら家族だけに面倒をみてもらえば足りるでしょうか。
――それは、ほぼ無理な話です。どうしたって限界はあるでしょう。
介護が不要になった後の、ご家族のその後のライフプランこそ大事に考えたいものです。
では、足りない分はお金を払って介護のプロに頼めば十分でしょうか。
――24時間365日依頼できるなら話は別ですが、経済的にも現実的ではありませんよね。
実際はこれでも足りないのです。
そこで、ご近所やボランティア等の地域社会の資源を活用した見守りが不可欠となります。
そのためには、「必要になったら享受するだけ」と都合よく考えるのではなく、
自らが十分に貢献しておくことも求められます。
「情け」だけではない「絆」や「安心」も、決して「人の為にあらず」なのだと思います。
そして、もし、こうしたセーフティネットワークの構築が間に合わない場合は、
見守りも含めたすべてをお金で手に入れる手段、 つまり、
有料老人ホーム(有料)やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)等への住み替えの検討です
(介護保険制度における在宅介護と施設介護とのカテゴリーとは異なります)。
もちろん、こちらの選択が、お考えにあっている方もたくさんおられます。
かかるお金の総額も、自宅での介護体制とさして変わらない可能性もあり得ます。
入念な計画さえすれば、むしろ(有料)は費用面で大きな変動なく安定的ともいえましょう。
ただし、入居時にはそれなりにまとまったお金も必要なので、その心づもりは必要です。
<二組のご夫婦がだされた結論>
地方への移住、もしくは都心への住み替えをしたとしても、
その後に再住み替えの必要性が生じるかもしれないことまで考えておく必要があります。
それを踏まえた居住地域選びと資金面での計画が必要です。
さて、今回の二組のご夫婦にお話を戻しましょう。
都心からいわゆる田舎でのスローライフを希望されていた吉岡さん(仮名65歳)は、
要介護になっても、あるいは自分で車の運転ができなくなっても困らないよう、
診療所や介護施設等の近隣インフラ等も移住先選びの要件に加えられました。
また、現地のコミュニティにすぐに良好に溶け込めるのか否かは不透明なものです。
そこで同じようなライフプランを描かれる仲間の集まるサークルをみつけられ、
数世帯一緒に候補地に何度も行かれたそうです。
資金面では移住予算の削減をご提案させていただきましたが、
時間を要し、かけがえのない財産づくりをおこないながら準備をされてこられました。
たぶん、いまもその財産づくりの途上だと思います。
郊外に50年以上暮らしている来杉さん(仮名75歳)は、都心コンパクトマンションへ
住み替えを検討していましたが、いまは長年暮らした地域とのパイプを再考されています。
減築も視野に入れた建て替えか、売却して引っ越すのかは、資金面を含め検討中です。
でも、要介護になってもできるだけ地域と築いてきた繋がりを持続的に活用できるよう、
地元社協の「地域福祉権利擁護事業」で有償ボランティアも始められています。
そして、まったく所縁のない地への引っ越しは、選択から外れているようです。
今回のお話、多少の味付けをしましたし、少々センシティブな部分はざっくり丸めました。
でも、シニア世代の方の住み替えにあたっての、ひとつの例です。
いろいろな方がおられて、いろいろなお考えがあるものですよね。
ベストな答えはそうそうなく、なにをベターと考えるのか人それぞれだと思います。