「不動産営業 独立大作戦」 池田浩一
「いつかは独立」と考える不動産会社の社員は多い…
しかし、何の考えもなしに独立できるほど甘い世界ではない。
成功するためには社員であるうちにできる準備をこっそりしておこう。20年以上不動産会社を経営している池田浩一氏が社員のうちにやっておくべき独立までのノウハウを伝授する。
今回は、独立後の損益分岐点の考え方について解説してもらった。(リビンマガジンBiz編集部)
月間でいくら稼げばいいのか
今回のテ-マは「損益分岐点」です。あなたがイメ-ジする開業後1年間の事業計画を具体的に分析してみましょう。ポイントは、毎月いくら売上げ、いくら利益を残せば、2年目以降の事業展開に結び付けることができるのか
を知ることにあります。実際にあなたが経営者としてスタッフと一緒に奮闘する姿を想像しながら読み進めてください。では始めましょう。
(1)社 名 リビンマッチ不動産(仮名)
主力業務 仲介業(売買、賃貸)
取扱案件 土地、戸建、マンション(主に居住用)
取扱価格帯 売買 3,000万円から4,000万円
賃貸 月額賃料 8万円から10万円
(2)ランニングコスト(損益分岐点)
人件費(3名) 700,000円
賃 料(事業所、駐車場など) 250,000円
その他(通信費、広告宣伝費など) 550,000円
〔合 計〕 月額 1,500,000円
上記のようにリビンマッチ不動産は、居住用物件の仲介を得意とする従業員3名の会社です。月々の損益分岐点となるランニングコストは150万円となります。損益分岐点とは、売上げと費用が等しくなる売上げ額のことです。損益分岐点を下回ると、赤字となります。
この150万円という金額をイメ-ジしやすいように、実際の不動産取引に置き換えてみましょう。例えば、売買価格4,000万円の仲介を1件と月額賃料8万円の仲介を3件成約した場合、成約により得られる報酬額を計算するとこうなります。
売買仲介(報酬形態)分かれ ※売主または買主一方からの報酬額
4,000万円×3%+60,000円=1,260,000円
賃貸仲介(仲介手数料)賃料の1月分
月額賃料 80,000円 × 3件 = 240,000円
〔合 計〕 1,500,000円
(注)説明を分かりやすくするため、仲介手数料に課税される消費税や賃貸仲介の場合の貸主や管理会社から支払われる広告料は考慮していません。
この例の場合、リビンマッチ不動産は、1月に4,000万円以上の売買仲介と8万円以上の賃貸仲介3件を成約すれば、損益分岐点を超えることができるわけです。如何でしょうか。「軽いもんだ!」あなたは今、こう感じたのではないでしょうか。独立を決意した頃の私自身もそうでした。
しかし、ここで冷静に考えてみてください。あなたは勤務する会社全体の数字を把握できていますか。あなたが絶好調の時に隣のデスクで数字を上げられず頭を抱えている同僚はいませんか。そんな姿は目に入りませんでしょうか。
無理もありません。私自身も独立を決意した頃は自信満々で逸る気持ちを抑えられない程でした。しかし、あることに気づいた瞬間に頭の中が真白になりました。そのあることとは、営業する上で「自分」という個人レベルでしか数字を捉えていなかったことです。
会社全体で収益を考える
営業数字で苦戦していれば経費のことなど考えもせず、大量に広告を印刷しました。先月より今月、今月よりも来月と自分の営業数字を伸ばすことだけを考え、会社がどれだけの経費を負担しているのか、営業数字が上がらない社員を会社がどのようにフォロ-しているのかなど考えたこともありませんでした。この点が自ら経営者として事業を行う者と会社に勤務する営業社員の視点の決定的な違いなのです。
あなたが独立開業することになれば、個人レベルではなく常に「会社」という組織全体で数字を把握し事業展開を考えていくことが必要になります。
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