ネットの双方向性により、ネガティブ情報の入手が容易になった
かつて不動産広告といえば、新聞の紙面広告や折り込みチラシ、住宅情報誌が主流でした。また、友の会に入会し、郵送されてくる会員誌やダイレクトメールによって物件情報を入手したものでした。
それが、今日では分譲業者のホームページやポータルサイトで簡単に入手できるようになり、さらに掲示板や口コミサイトを活用することで、リスクやネガティブな情報も手に入れやすくなりました。インターネットの双方向性によって、消費者が発信する物件評価をクリック1つで手軽に見られるようになりました。売り手サイドに物件情報が偏在する「情報の非対称性」の緩和に大きく貢献しています。
しかし、これだけ不動産広告における情報チャネルが多様化したにもかかわらず、今もってマイホーム検討者が最も必要としている情報が簡単には手に入りません。その情報とは「物件の販売価格」です。紙媒体にしろインターネットにしろ、きれいな外観や室内のイメージ写真ばかりで、価格表を掲載した不動産広告を目にする機会は皆無です。
ライバル業者に「後出しジャンケン」させない苦肉の策
一体、なぜなのでしょうか?―― そこには3つの理由が存在しました。
まず1つ目は「期待を持たせる」心理的な狙いがあります。というのも、あからさまに価格表を公表すると、予算がはっきりしている人にとっては広告を見ただけで「とても買えない」と検討対象から外されてしまいます。門前払いされ、モデルルームへの来場を促すことができません。
これでは多額の宣伝費がムダになりかねず、また、営業のしようもありません。そこで、たとえば「ファミリータイプが3480万円から」と最低価格だけを掲載することで、「私でも手が届くかな……」と思い込ませる作戦です。販売価格を小出しにすることで、興味を引こうというわけです。
次に、ライバル物件に販売価格を教えたくないことも理由のひとつに挙げられます。なぜなら、業者間の熾烈なサバイバル合戦が繰り広げられる中で、各分譲業者は販売価格に神経をとがらせているからです。価格設定の失敗は致命傷(販売苦戦の原因)になるのです。
競合物件に勝つためには、値ごろ感のある値付けが絶対条件となります。そこで、他社の分譲価格をベンチマークにして、自社物件の価格を設定するのですが、こうした「後出しジャンケン」をさせないために価格表の公表を控えるのです。電話やインターネットで資料請求しても、送られてくるパンフレットの中に価格表は同封されていません。
実は、営業マンも販売価格を知らない(?)
さらに、こんな理由もあります。価格表を「公表しない」のではなく「公表できない」のです。全住戸の販売価格が決まっていないのです。
分譲マンションにしろ建売り住宅にしろ、不動産業界の慣習として建物が完成する前から売り出す(青田売り)のがほとんどです。そのため、広告の作成時点では販売価格が確定していません。もちろん、まったく決まっていないわけではなく、「予定価格」はあるのですが、ライバル物件の売れ行きや、来場者の予定価格に対する反応を見ながら最終的な売り出し価格を詰めていきます。予定価格は修正(価格改定)される可能性があるため、広告には掲載しにくいのです。
驚いたかもしれませんが、予定価格での営業は決して珍しいことではありません。かつて、私が新築マンションの営業マンをしていた時もそうでした。購入申込みの受付直前まで最終価格を知らされない時もありました。値付けがマンションの売れ行きを大きく左右するだけに、各分譲業者は「後出しジャンケン」をしたがります。その結果、ギリギリまで販売価格は決まりません。
以上、こうした理由により不動産広告には価格表が掲載されていません。マイホーム検討者が最も知りたい情報を“出し惜しみ”するような業界体質からは、一刻も早く抜け出してほしいものです。