一般大衆化、空洞化、そしてスラム化する分譲マンション

日本に分譲マンションが誕生して半世紀以上が過ぎました。2015年末現在、全国のマンションストック戸数は約623万戸、およそ1530万人が暮らすほど身近な居住形態として定着しており、かつての“高嶺の花”といったイメージは薄れました。すでに分譲マンションはコモディティー化(一般大衆化)の道を歩んでおり、多くの人が手にしやすい存在となりました。

しかし、その一方で当初は想定もしていなかった課題が顕現化しており、今般、様々な弊害をもたらしています。

とりわけ、高経年マンションを中心に深刻なのが「管理組合の機能不全」です。居住者の高齢化に伴い、定期での理事会開催が困難となり、山積する課題への解決能力は低下の一途をたどります。受託管理会社の支援も虚しく、進行する「マンション管理の空洞化」がマンションの資産価値をも引き下げます。

当然、管理費や修繕積立金の滞納者は後を絶たず、適時・適切な計画修繕の実施は不確実となります。その結果、建物や共用設備の維持管理はおろそかになり、最悪、マンションのスラム化をもたらします。事実、こんな理不尽なシナリオが、決して絵空事ではなくなろうとしています。

すでに支払った修繕積立金を返還してほしいと言われたら?

マンションの将来に展望が見いだせず、住み替えるだけの経済力のある区分所有者なら、見切りをつけて自宅マンションの売却を検討。TVドラマのタイトルのように、「逃げるは恥だが、役に立つ」とばかりに、“スラム化予備軍”のマンションから出ていこうと考えるのは自然な流れです。その際、区分所有者から

「すでに支払った修繕積立金を返してほしい」――

と返金請求されたら、管理組合は応じなければならないのでしょうか。その時点で使われずに残っている修繕積立金に対し、持分割合に応じた既払い分を返還してほしいと訴えています。

ここで、改めて再確認しておきましょう。修繕積立金とは、将来にわたって安全・安心・快適な生活が送れるよう、マンションの共用施設や各種設備を常に最適な状態に維持すべく、定期あるいは必要に応じて実施する修繕工事のための原資です。

そして、区分所有法では「各共有者(区分所有者)は規約に別段の定めがない限り、その持分に応じて共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する」(第19条)と定めています。分譲マンションの区分所有者に対し、厳格に管理費や修繕積立金の支払い義務を課しています。

修繕積立金は管理組合にとっての「債権」  返還請求に応じる必要なし

このことから分かるように、修繕積立金は管理組合にとっての「債権」に他ならないのです。他方、支払い義務を負う区分所有者にとっては「債務」となります。マンション標準管理規約でも「管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の包括承継人および特定承継人に対しても行うことができる」(第26条)と明示しています。

管理費や修繕積立金を滞納したまま区分所有者が死亡した場合、そのマンションを相続した相続人(包括承継人)が滞納分の支払い義務を負います。あるいは、未払いのまま売却した場合には、そのマンションを購入した買い主(特定承継人)が、前所有者(=売り主)を肩代わりして管理費等の滞納分を支払わなければなりません。

債権とは、特定の人に対して財産上の行為を請求する権利のことです。区分所有者から支払われた修繕積立金は管理組合にとっての債権となり、帰属先は管理組合に移管されます。つまり、口座から引き落とされた段階で、修繕積立金は“管理組合のもの”になるのです。

以上より、結論として返金請求はできません。繰り返しになりますが、区分所有者の手を離れた修繕積立金は、納入後、管理組合の債権となるからです。区分所有者のものではないのです。よって、管理組合は返還請求に応じる必要はありません。

 
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