7月初旬、九州北部を襲った記録的な豪雨は、30名を超える犠牲者と、いまだ多くの行方不明者を出している。22日には、秋田県でも豪雨による住宅浸水や土砂崩れが発生した。今や日本全国で、異常気象とそれにともなった土砂災害が発生している。こういった報道を見ていると、今後の家選びや今住んでいる場所に、災害のリスクがあるのかが気になってくるのは当然のことだろう。今回は、地質や地盤という観点から、住宅の安全性について、FPオフィス ノーサイド 橋本秋人代表に聞いた。(リビンマガジン編集部)
※記事内の災害とは関係ありません (画像=写真AC)
今年は、かつて経験したことがないといわれる豪雨が各地に甚大な被害をもたらしています。
気象庁は7月19日、特に被害の大きい九州地方の豪雨災害を「平成29年7月九州北部豪雨」と命名しました。九州北部豪雨では、多くの方が亡くなったうえに、今も行方不明の方もおり、7月23日現在でも600名以上の方が避難生活を強いられています。
この度犠牲になった方々、被害に遭われた方々に心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。
土砂災害が発生する要因
豪雨になると、毎回のように大きなニュースになるのが土砂災害と水害です。
今回、一部報道では、花崗岩が風化してできた真砂土(まさど)の地層が大規模な土砂崩れを引き起こした要因とありました。平成26年に74名もの犠牲者を出した広島県の大規模な土砂災害でも、土石流が起こった斜面には多数の真砂土が含まれていたという報道がありました。
確かに真砂土はその性質から土砂災害を引き起こしやすいとされています。ただ、真砂土は主に中国地方を中心とした西日本と、東北地方の太平洋側に多く分布しており、その他の地域にはあまり見られません。
それにもかかわらず、土砂災害は毎年全国的に発生しています。国土交通省によると、平成27年に全国で発生した土砂災害は788件にのぼりますが、都道府県別の発生件数を多い順に見ると、①鹿児島県②静岡県③神奈川県④栃木県⑤熊本県とばらついており、東西の偏りは見られません。
今回の九州北部豪雨では、「線状降水帯」といわれる降水域に積乱雲が次々と発生し、局地的に集中的かつ長時間の特異な豪雨をもたらしました。やはり、土砂災害の最も大きな原因は局地的な豪雨で、そこに地形、地質などの要因が複合的に重なったためと考えた方が良いでしょう。
ここで、土砂災害についてもう少し掘り下げてみましょう。
土砂災害は大雨の他、地震や火山活動、雪どけによっても引き起こされます。
土砂災害には大きく分けて3つの種類があり、どれも人的、物理的に大きな被害を及ぼします。発生しやすい主な場所や地形、発生の前兆は以下の通りです。
(1)土砂崩壊(がけ崩れ、土砂崩れ)
地形=傾斜が30度以上、高さ5m以上の斜面
前兆=斜面のひび割れ、変形がある。地下水や湧き水が止まる。多量の濁った水が噴き出す。など
(2)土石流(流木災害を含む)
地形=渓流、谷川の出口
前兆=川の水が急に減少する。地鳴りがする。近くで山崩れや土石流が発生している。など
(3)地すべり
地形=緩い斜面
前兆=大雨、長雨の後、雪解け時に多く発生する。地鳴りがする。地面が振動する。など
宅地の緩い開発規制が犠牲を大きくした?
実はもうひとつ、特に人的被害を発生させる要因として、無視できない問題があります。
それは、土砂災害により大規模な人的被害があった地域では、過去の宅地開発が災害の発生場所に近いところまで拡大していたということです。
都道府県の調査で判明した土砂災害の発生の恐れがある場所は、「土砂災害危険箇所」として指定されています。国土交通省によると、2015年現在、全国に約52.5万ケ所もあり、実に全国の約9割の市町村が危険箇所を有しているのです。
ところが建築などについて法的な規制がないため、住宅や共同住宅が容易に建築できてしまいます。
また、土砂災害防止法により指定される「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」においても、一部の開発行為の制限などはありますが、一定の条件下で住宅などの建築は可能です。
警戒区域に指定されてしまうと、「地価が下がる」「売却しづらくなる」「自由に建築ができなくなる」などの理由から、住民が反対し区域の指定が進んでいないという実態もあります。そうなるとますます、住宅は危険箇所の近くまで広がってしまいます。
その結果、土砂災害による人的被害の発生の大きな要因になってしまうのです。
行政側は住民の命を守ることを最優先の課題と捉え、危険な地域での開発や住宅建設に対してはより厳しい対応をすることを強く期待します。
もちろん個人レベルでも、危険を回避し身を守るためには、自己防衛をしなければなりません。
災害のリスクを減らす家選び
住まい選びにあたっても、災害から自分や家族を守るために、立地選びは重要です。
その際、参考になるのがハザードマップです。特に東日本大震災の後、注目されたこともあるので、ご存知の方も多いと思います。
ハザードマップとは、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被害想定区域や避難場所などの防災関係施設の位置などを表示した地図です。地方自治体によっては、防災マップ、被害予測図、被害想定図という呼び方をしています。
ハザードマップ・埼玉県飯能市の例
ハザードマップは、各地方自治体が作成し、ホームページ上で公開しています。
その種類は多岐にわたり、土砂災害の他に、地震による建物倒壊、液状化、洪水、内水、高潮、津波、火山など様々なものがあります。
また国土交通省が公開している「ハザードマップポータルサイト」でも、全国の地方自治体が公開している災害情報を検索、閲覧することができます。対象としている災害は、土砂災害、洪水、内水、高潮、津波、火山の6種類です。(※国土交通省ハザードマップポータルサイト)
ハザードマップも利用しながら、安全な住まい選びに活かしてください。
近年の異常気象により、今後も多くの自然災害が発生することは避けられないでしょう。
それでも、少なくとも尊い命だけは失わないように、個人レベルでも正しい情報の収集と迅速な行動をこころがけましょう。