今月のはじめ、保守の論客として著名な女性ジャーナリストが、都内にある神社の敷地の一部を借りて家を建てて、自宅にしているという記事がネットメディアで報じられた。記事によると、都内港区にある神社の敷地内に、総床面積520㎡もの豪邸が建っているとのこと。

宗教法人は法人税や固定資産税が非課税とはよく知られた話だ。では、今回のように、神社の敷地内の土地を貸し出す場合も、敷地を所有する宗教法人は税金を支払う義務はないのだろうか。住宅メーカー勤務時に神社や寺の活用経験もある、FPオフィス ノーサイド 橋本秋人代表に聞いた。(リビンマガジン編集部)


※記事内の神社とは関係ありません (画像=写真ACより)

宗教法人の収入はすべて非課税ではない

神社やお寺などの宗教法人は、よく税金が優遇されているといわれています。しかし、実際には宗教法人の事業は、「非課税事業」と「収益事業」に分けられており、収益事業から生じた所得に対しては法人税の課税対象となっています。

例えば、境内にある結婚式場での挙式は非課税ですが、披露宴での席貸しや飲食物の提供は課税対象となります。また同様に、境内にある幼稚園の保育料・入園料は非課税ですが制服・文具の販売は課税対象となります。

また境内でのお守り・おみくじの販売は非課税ですが、絵葉書・キーホルダー等の販売は課税対象です。このように、宗教法人の事業は、非課税事業と収益事業の区別について細かく決められています。

地方税である固定資産税と都市計画税(以下固定資産税等)についても、宗教本来の事業に供する不動産は非課税となっています。

例えば、神社やお寺の境内にある本殿や本堂など、宗教的建物や境内地は非課税です。また社務所(宮司の住まい)や庫裡(住職の住まい)についても、宗教活動上必要と認められるものとして非課税となっています。

境内の借地に固定資産税はかかるのか

それではくだんの記事のように、神社が境内の土地を個人に貸している場合、固定資産税等の課税はどうなっているのでしょうか。

結論から述べると、土地は課税の対象となります。

固定資産税等は現況に対しての課税になるため、住宅が建っていれば住宅用地として課税されることになります。

それでは仮に借地にしている土地の地目が「境内地」(注:神社・仏閣の境内に属する土地)になっている場合はどうでしょうか。

固定資産税等はあくまで現況課税のため、たとえ登記上の地目が「境内地」となっていても、そこに住宅が建っていれば当然「宅地」として課税対象になるので、固定資産税等が非課税になるということはありません。

なお、住宅用地については、小規模住宅用地の軽減の特例を受けることができます。

これは、住宅1戸につき200㎡までの土地の課税標準が、固定資産税については6分の1、都市計画税については3分の1に軽減されるというものです。

そのため土地の固定資産税等の税額は非住宅用地と比べ大幅に安くなります。

ただ今回のケースでは、建物の延床面積が約520㎡と一般的な住宅と比べかなり大きく敷地面積も200㎡を超えると推測します。その場合は、固定資産税の課税標準が6分の1に軽減されるのは200㎡までの部分で、200㎡を超える部分については一般住宅用地として3分の1にしか軽減されません。

さらに建物の大きさから、全てが居住部分ではなく、事務所等居住以外の部分があることも考えられます。事務所や店舗は、住宅ではないので小規模住宅用地の特例が受けられません。

そのため、この場合は敷地面積のうち、建物面積に対する事務所面積の割合の分は軽減が受けられず、神社は高い固定資産税を納税していることになります。

不動産貸付業の法人税を非課税にする方法

ここで法人税の話に戻りますが、不動産貸付業に関しては、非課税事業か課税事業かの判断は地代の額によります。

法人税法では、地代が固定資産税等の3倍以下の場合には、収益事業(課税事業)には該当しないものとして非課税としています。ここは固定資産税等とは考え方が異なりますね。

元々神社やお寺は広大な敷地を所有していることが多く、昔から寺社の周辺には借地が数多くありました。今でも有力な寺社の中には数百ヶ所もの借地を所有しているところもあり、その借地を管理するために専門の担当職を配置しているところさえあります。

そのような寺社は、所有不動産についてもシステマチックに運営管理しています。地代や更新料、建替承諾料などもきちんと金額を決めていて、ほとんど交渉をすることはありません。神社・お寺は土地の有効活用を最大限に行っている不動産投資業なのかもしれません。

お寺の地下にこんなものが!?

かの弘法大師が開山し、昨年創建1200年を迎えた高野山金剛峰寺。

案内してもらったのは港区高輪、高輪警察署に隣接している高野山東京別院。広大な境内に建つ立派な本堂。中には弘法大師が本尊として祀られており、厳かな気持ちになります。

高野山東京別院本堂

本堂の横には平屋の小さな別棟があります。

本堂でお参りしたあと、その別棟に入り、地階にしか行かない不思議なエレベータで降りた先は地下7階。


地上1階から地下7階までのエレベータ

そこには境内の荘厳な雰囲気とはかけ離れた別世界がありました。

立ち並ぶ巨大な変電設備、うなる低周波音。

そこは、東京電力の高輪変電所だったのです。


施設の概念図


品川駅方面まで続く地下ケーブル

東京電力が高野山東京別院の境内に地下権(地上権の一種)を設定して1989年に完成。

ここで品川区、港区、目黒区、渋谷区、大田区の約半分の電力を賄っているとの説明でした。変電所の立地として高野山東京別院の地下を選んだ理由は、都心の土地不足や近隣への影響、更に付近の強固な地盤などからです。

昨今、経営状況の厳しい寺社が多く、氏子や檀家の減少に伴う収入減を補うために努力や工夫をしていることも少なくありません。

お寺カフェ、坊主バー、野外ライブ、プロジェクションマッピングなどユニークな商売も話題になっていますが、所有不動産についても有効に活用しようという動きもあります。最近では、本堂に隣接した土地にミドルソーラーの施設を作り、太陽光売電を始めたお寺もありました。

立地条件が良くメリットがあれば、今後宗教法人も新たな収入源として、さまざまな新しい利用方法を考えていくのではないでしょうか。 例えば地下に温泉を掘り当てて、「大江戸温泉物語」のような大規模温浴施設などを経営すれば、外国人観光客を始め多くの来客で賑わうと思います。また、布教活動にも役立つかもしれません(笑)

私も是非入りたいですね。肩まで浸かると思わずこう言うでしょうね。「極楽、極楽…」

 
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