橋本秋人「使える空き家ビジネスのススメ」
社会問題化する「空き家問題」は不動産業界のビジネスチャンスでもあります。
そこで、空き家に関する講演やセミナー登壇で活躍する橋本秋人さんに、空き家を取り巻くビジネスの羅針盤になるような知識を紹介していただきます。読めば空き家問題、恐れるに足らずと思える連載です。
前回まで、空き家問題をめぐる行政の対応として、代表的な飴と鞭の施策を解説しました。
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空き家をめぐる行政の飴と鞭施策【鞭編】
しかし、人は飴や鞭だけでは動きません。施策を促進しやすくするための環境づくりも重要です。今回は、空き家問題解決に向けて環境整備をするための行政による最近の動きを見てみましょう。(リビンマガジンBiz編集部)
(画像=足成)
■所有者不明の土地・空き家の解消=相続登記の義務化を検討
現在、政府は相続登記の早期義務化を検討しています。
2018年1月19日、菅官房長官は閣僚会議において相続登記の義務化や、所有権放棄の可否を検討する方針を表明しました。
日本全国には、所有者不明の不動産が広大にあります。
2017年12月に増田寛也元総務相らの研究会が公表した試算では、2016年に全国で所有者が特定できない土地は約410万ヘクタールにも上ります。これは九州の面積を上回る広さです。同研究会は、今後有効な対策を講じないと2040年には北海道の9割の面積(約720万ヘクタール)が所有者不明の土地になる可能性があると警鐘を鳴らしています。
不動産の所有者が分からないと、行政がすすめるあらゆる施策に弊害を及ぼします。実際に特定空家等の増加や、道路・公園用地を買収できないなど、さまざまな弊害が起きています。
そもそも、不動産が誰のものか分からないことなどあり得るのでしょうか?
日本の登記制度は、表題登記(物件の所在、種類、地目、面積等を表示)は義務ですが、所有者が記載されている権利登記(所有権保存登記、所有権移転登記等)は任意とされています。
そのため、相続等で所有者が変わっても、所有権移転登記(相続登記)をしなければ、登記簿上は前の所有者のままです。相続で所有者が親から子へと変わっても相続登記はしなかったということはよくあることです。相続登記をしないまま時間が経つと、代替わりが進み、法定相続人の数がネズミ算式に増え、所有者の把握が困難になります。なかには相続人の失踪や、海外に移住している場合などもあます。
今後は不動産の所有者をタイムリーに把握するため、近いうちに相続登記の義務化が実施されるでしょう。
■住宅政策は新築住宅から中古住宅へ
これまで、新築住宅の建築は景気に与える影響が大きいため、国は住宅政策を重要な景気浮揚策と位置付けてきました。しかし、それが空き家の増加を助長する一因になっています。
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空き家問題の深刻化や環境破壊といった諸問題から、国の政策は住宅のフロー(消費)よりもストック(保有)重視に転換せざるを得なくなりました。そのためにリフォーム市場の拡大と中古住宅流通促進は今後必須の重要な課題となります。
平成30年度の国土交通省「住宅政策予算案」を見ると方向性が明確になっています。
住宅政策における重点ポイントとして、
(1)既存住宅の質の向上と流通促進による住宅市場の活性化
(2)少子高齢化・人口減少に対応した住まい・まちづくり
(3)災害等に強い安全な暮らしの実現
(4)良質な住宅・建築物の整備等
があげられています。
これまでの国による住宅政策の変遷を見てみると、
新築住宅の量の確保(戦後~1980年代)
新築住宅の質の向上(1990年代~2000年代初頭)
既存住宅の質の向上・流通促進(2010年代~)
と、新築から中古へと重点がシフトしていることが分かります。今後もこの流れは続くと考えられます。空き家対策についても、上記の重点ポイント(1)の中に盛り込まれており、強力に推し進める内容になっています。
これからは、空き家の所有者や空き家ビジネスに関わる事業者も、国や自治体の方針や施策に対して常にアンテナをはり、迅速に対応を図ることが重要になります。
空き家ビジネスを進めるにあたり、必ず押さえておきたい重要なポイントがあります。
次回は、2つの重要ポイントとその影響についてお伝えします。