橋本秋人「使える空き家ビジネスのススメ」
社会問題化する「空き家問題」は不動産業界のビジネスチャンスでもあります。
そこで、空き家に関する講演やセミナー登壇で活躍する橋本秋人さんに、空き家を取り巻くビジネスの羅針盤になるような知識を紹介していただきます。読めば空き家問題、恐れるに足らないと思える連載です。
空き家問題の深刻化に対しては、国や自治体がさまざまな手を打ち始めています。第3回目は、国が講じている空き家問題解決のための施策を飴と鞭で分けて紹介します。今回は飴編です。(リビンマガジンBiz編集部)
前回のコラム「空き家をめぐる行政の飴と鞭施策【鞭編】」でご紹介した「空家対策特別措置法」が鞭の政策であるのに対し、国は飴の施策も講じています。
(画像=写真AC)
■被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除(平成28年2月施行)
相続した家が空き家になるケースがあります。国や自治体としては空き家が適切な管理もされず放置されることは避けたいところです。そのような状態が長く続くと空き家はやがて朽ちてゆき、「特定空家等」のような状態に進んでしまうからです。
誰も住むこともなく適切な管理もできないのであれば、空き家の所有者には早めに手放してもらい、新たな所有者が居住したほうが、空き家状態の解消や、地域の活性化にもつながります。空き家の所有者が、その空き家を売却した場合の税金を軽減することにより、売却を促進しようというのが「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」の趣旨です。
具体的に解説します。
この制度は、親が住んでいた家(空き家)を相続した後に売却して得た利益(=譲渡所得)から3,000万円を控除し、残った利益に対してのみ譲渡税を課税するという内容です。
【譲渡所得の計算式】
譲渡所得金額=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)
【本特例を適用した場合の譲渡所得の計算式】
譲渡所得金額=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)-3,000万円
つまり、この特例を適用した場合、譲渡所得金額が3,000万円を超えなければ、税金はかかりません。
今の時代、空き家を売却しても利益が3,000万円も出ないだろう、という見方もあります。しかし、実際はそうでもないようです。その理由を述べる前に、もう少しこの制度の詳細を見てみましょう。
まず適用になる居住用財産とは、以下のものです。
・親から相続した空き家
または
・その空き家を解体した後の土地
売却する空き家については以下3つの要件全てに当てはまる必要があります。
1.昭和56年5月31日以前に建築されている
2.区分所有建物でない。いわゆる一戸建ての建物
3.相続の開始の直前に、被相続人以外に居住していた人がいない
また、居住用財産は、相続の時から3年の属する年の12月31日までに売却する必要があります。
さらに、この特例を受けるためには以下の要件が必要になります。
1.売却する空き家は、相続してから譲渡するまで事業や賃貸、居住をしていないこと
2.建物は一定の耐震基準を満たすこと
3.売却代金は1億円以下
多くの要件がありますが、そのうちひとつの要件以外は比較的クリアしやすいものです。クリアすることが難しいのは、上記2の、売却する空き家に一定の耐震基準を求めているという点です。
この要件を定めた理由は、大地震が発生したときの建物の倒壊被害を最小限に抑えるためには、耐震基準を満たさない建物を減らしていく必要があるからです。
前述の通り、昭和56年5月31日以前に建築された空き家が適用を受けられる要件ですが、これらの多くが現在の耐震基準を満たさない建物であるため、耐改修強工事をしなければいけないことになります。
しかし工事費用は高額になるため、売主にとっては大きな出費になってしまいます。この制度の適用を受けるために、あえて空き家に多額の費用をかけて耐震改修工事をしてから売却するということは現実的ではありません。そこで、この制度では建物解体後の土地(更地)で売却しても良いことになっているのです。
耐震改修工事を避けるために建物を解体して売却する所有者が多くなると考えられます。結果的に耐震基準を満たさない建物が除却されることになるので、行政側も歓迎するのです。
これらの要件を満たせれば、この制度には大きなメリットがあります。
それは、一般的に相続した空き家を売却すると利益(譲渡所得)が生じるケースが多いからなのです。
相続した家を昔、父母や祖父母が購入しているとすれば、取得価格は売却価格に比べてかなり安かったでしょう。
また、相続した家の取得価格がわからない場合は、売却価格の5%を取得価格とみなし取得価格とします。そうなると、様々な譲渡費用を引いても利益が残ることが多いのです。
長期譲渡所得税率は20.315%ですので、仮に利益が3,000万円ある場合は600万円以上の税金がかかってしまいます。その際に、この制度が利用できれば、税金はゼロになるため、空き家の所有者にとっても売却に対するモチベーションが上がります。
この制度をうまく活用することにより、空き家の所有者、行政、売買に関わる不動産会社等全てにメリットが生まれれば、空き家問題の解決の一助になるでしょう。
今後、この制度を新たなビジネスチャンスとして、不動産会社の活躍の場も増えることを期待します。