橋本秋人「使える空き家ビジネスのススメ」

社会問題化する「空き家問題」は不動産業界のビジネスチャンスでもあります。
そこで、空き家に関する講演やセミナー登壇で活躍する橋本秋人さんに、空き家を取り巻くビジネスの羅針盤になるような知識を紹介していただきます。読めば空き家問題、恐るるに足らないと思える連載です。

空き家問題の深刻化に対しては、国や自治体がさまざまな手を打ち始めています。第3回目は、国が講じている空き家問題解決のための施策をアメと鞭で分けて紹介します。今回は鞭編です。(リビンマガジンBiz編集部)



(画像=写真AC)

■空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家対策特別措置法・平成27年2月施行)

空家対策特別措置法は、飴と鞭でいえば鞭(むち)の対策と言えます。

空き家の中でも、適切に管理されていないものは、防災、衛生、景観など近隣住民や周辺環境にさまざまな悪影響を及ぼします。

ゴミの不法投棄や動物の侵入、臭気の発生、放火・盗難等犯罪の誘発、雑草や庭木の繁茂など悪影響をあげればきりがありません。このまま放置状態が進むと、建物の損傷や倒壊により人的、物的被害を及ぼす危険も生じます。そこで、このような空き家に対して行政が介入し、是正措置がとれるようにしたのがこの法律です。

空家対策特別措置法では、空き家のうち以下の要件を満たすものを「特定空家等」と定義しています。
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

空き家の所有者に対して、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空き家の適切な管理に努めるよう促すことを目的とした法律です。そちらに加えて、市町村に対しても、空き家に対して必要な措置を適切に講じることとし、市町村ごとに「空家等対策計画」の策定を推進しています。

この法律により、市町村は空き家の所在や所有者の調査ができ、上記の定義に当てはまる空き家を「特定空家等」に指定することになりました。

「特定空家等」に対しては、その是正のために段階的に手続きを進めることになります。

助言・指導
まず市町村は、特定空家等の所有者に対し、解体、修繕、立木の伐採など周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう助言・指導を行います。

勧告
さらに助言・指導に従わない場合、改善の勧告をします。
勧告がなされると、土地が固定資産税等の特例対象から除外されます

通常、200㎡(約60坪)までの小規模住宅用地に対しては、固定資産税と都市計画税の課税標準をそれぞれ6分の1、3分の1と大幅に軽減する特例が適用されています(200㎡を超える部分は一般住宅用地として各3分の1、3分の2)。

この適用が受けられなくなると、土地の固定資産税等が大きく増え、所有者にとって税負担が増すことになります。この段階で、初めて特定空家等に対してのペナルティが与えられるのです。

命令
それでも改善されない場合は、相当の猶予期限を設け改善の命令が出されます。なお、命令が出された場合、特定空家等の所有者には意見書の提出や意見聴取の機会が与えられます。

罰金・行政代執行
最終的に命令によっても改善ができないと、行政代執行(所有者が不明の場合は略式代執行)により、市町村が所有者に代わって改善や建物の解体等を行います。それらにかかる費用は所有者に請求することになります。

また命令に従わない所有者に対しては、50万円以下の罰金を課すこともできます。

空家対策特別措置法の主なポイントは、以下の3点でしょう。
1.個人の所有財産の管理に対して、行政が介入できるようにしたこと。
2.行政の指導に従わない場合、行政代執行が認められていること。
3.罰則規定が設けられていること。(罰金や固定資産税等の軽減の非適用)

それでは、空家対策特別措置法の施行は、果たして空き家問題の解決につながっているのでしょうか。

現状、少なくとも「特定空家等」の解消に対してはそれなりに効果を上げていると考えられます。

同法が施行されてから平成29年10月1日までの約2年7カ月の間に、助言・指導を受けた特定空家は全国で8,555件、代執行(略式代執行含む)まで至ったケースは60件となっています(平成29年10月1日時点 国土交通省・総務省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」)。

ということは、それなりの数の空き家が「特定空家等」に指定されたことにより、多くの空き家所有者が状況の改善に取り組んだということが言えるでしょう。

ただし、同法に基づく「空家等対策計画」を策定済みの市町村の割合は未だ25.7%(平成29年10月1日現在)と全体の4分の1に過ぎず、地方自治体による取り組みに対する温度差も感じられます(出典:同上)。今後の各市町村の取組み姿勢は、空き家問題の解決に向けての重要な要素になるでしょう。

(※本コラムでは、「あきや」の表記については、一般的に幅広く使用されている「空き家」を用いていますが、法律等で「空家」と表記されている場合、そのままの表記としています。)

 
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