国際相続課税7
-日本とカナダを跨ぐ相続-
Ⅰ.はじめに
今回は、前回に引き続き、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係に関して、日本の相続税法上の国際相続の計算を具体例に即して紹介します。
先に事例を紹介します。被相続人はカナダ在住のカナダ国籍の方です。被相続人には配偶者、長男、長女、次男がいます。配偶者及び長男はカナダ在住のカナダ国籍、長女は日本人と結婚した日本在住の日本国籍、次男は仕事の都合で日本に来ているカナダ国籍、という事案です。また、遺産として、カナダに預金、日本に不動産があるとします。
それでは以下、具体的に考えてみましょう。
Ⅱ.相続税の計算方法
1.外国人の住所
配偶者と長男がカナダに住んでいるため、日本に住所はありません。しかし、次男は仕事のために来日しています。このとき、次男の住所が日本あると判断されれば、次男は居住無制限納税義務者に該当します。居住無制限納税義務者は、その取得する被相続人の内外すべての遺産が、相続税の対象資産となります。
では、次男は日本に住所があるといえるでしょうか。相続税法上、住所の定義について規定が設けられていません。しかし、民法上は各人の生活の本拠をもって住所とされており、これが参考になります。
例えば、次男が、一時的な観光ではなく、仕事として来日し、その仕事上、長期間にわたる日本における業務用のビザを取得している本件のような場合には、次男は日本に住所を有すると判断されるでしょう。
2.日本人で、日本在住の者の相続税の対象財産
長女が日本人と結婚し、日本国籍を取得して、日本に配偶者として居住しています。この場合、長女は居住無制限納税義務者に該当します。したがって、被相続人の日本国内外の財産全てが、相続の対象となります。
3.被相続人のカナダの遺産について-カナダにおける相続及び納税等
日本では、被相続人の財産が被相続人の死亡と同時に、共同相続人間の共有になり、その後共同相続人間の協議によって、遺産が分割されてゆくことになります。これに対し、カナダなどの英米法諸国では、相続人と独立の遺産財団が構成されます。そして遺産財団の遺産管理者が選任され、遺産管理者によって、被相続人の債務や相続税が弁済され、なお積極財産が残されていた場合のみ、共同相続人に持分(妻3分の1、子3分の2)に応じて分配されることになります。
したがって、負債は相続されることはなく、共同相続人自身は相続税の納税義務を負担しません。すなわち、遺産の範囲で相続税を払うことになります。
仮に、被相続人の遺産として、預金が6000万円あり、カナダにおける納税などに、600万円がかかったとすると、カナダのケベック州法上、配偶者、長男、長女、次男は残りの遺産の5400万円を、カナダのケベック州の相続分に応じて、以下のとおり、相続します。
配偶者:1800万円(5400万円 ×1/3)
長男、長女、次男:1200万円(5400万円 ×2/3 × 1/3)
以 上