Ⅰ.はじめに

今回は、前回に引き続き、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係について、相続人間の国籍を異にする場合の相続税の計算の前提として、渉外相続の課税関係を複雑にする背景を紹介します。

Ⅱ.渉外相続の課税関係の複雑さの背景

最近では国際結婚が多くなっています。これに伴って、被相続人や相続人の間で国籍や住所が異なる場合も少なくありません。日本でも、相続人の中の1人として外国籍の方がいる場合などが増えています。

このような場合、我が国の相続税法は、相続人の国籍、相続人の住所という要素によって、相続税の対象となる財産の範囲を画定しています。

このような相続税法の定めは、居住地や国籍を意図的に変更して行う相続税回避の対策として設けられたものです。しかし、その結果として、課税関係が極めて難解なものとなっています。現在の相続税の居住地や国籍による規制に至る背景を簡単にまとめると、次のとおりになります。

平成11年までは、相続時に相続人が海外に居住してさえすれば、海外の相続財産に対して我が国の相続税は課税されることはありませんでした。そこで、この規制の抜け道を利用して、相続税回避が頻繁に行われていました。つまり、相続人を海外に居住させ、かつ財産の全てを海外に移転することによって、日本の相続税を回避する事態が頻発にありました。

このような事態を受け、平成12年の相続法の改正により、非課税となる条件として、相続人の海外居住期間が5年を超えること、といういわゆる「5年ルール」が設けられました。これによって、上述の方法により海外財産を課税対象外とするためには、相続人が5年を超えて海外に居住することが条件となりました。

しかし一方で、平成12年改正と同時に設けられた「相続人の国籍による判断基準」が、新しい抜け道になってしまいました。つまり、この改正の結果、相続人の海外居住期間がたとえ5年未満であっても、相続人に外国籍を取得させ、かつ全ての財産を海外に移動させることによって、相続税の回避が可能となってしまいました。

このような事態を受け、平成12年改正から間が空いてしまいますが、平成25年の改正にて、相続人が外国籍であっても、被相続人が国内に居住している場合には、海外財産に対しても課税されることになりました。ただし、相続人が外国籍の場合には、被相続人が死亡時に海外に居住し、かつ相続人が海外に居住していた場合には、当該相続人は、制限納税義務者となります。すなわち、当該相続人の課税対象は日本国内の財産のみに制限されることになります。

このような経緯を経て、相続人ごとに相続税の対象となる財産の範囲につき、法律が整備されました。そのために、法律を一読して理解することは困難となってしまいました。

 

 

Ⅲ.結び

 今回は、今回は相続人間の国籍を異にする場合の相続税の計算の前提として、渉外相続の課税関係を複雑にした背景を紹介しました。

次回は、渉外相続の相続税の計算の前提として、渉外相続の課税関係の基礎を紹介します。

 (以 上)

 
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