国際相続課税-相続税3
国際相続課税-相続税3
Ⅰ.はじめに
前回に引き続き、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係について、日本の相続税法上の問題の前提として、今回からは相続税の計算方法を具体例に即して紹介します。
Ⅱ.相続税の計算の具体例(日本人間)
国際相続における相続税の計算は非常に複雑かつ難解であるため、まずは相続人及び被相続人が共に日本人で、相続財産が全て日本国内にある場合を前提に計算の仕方を紹介したいと思います。
前提とする事案は次のようなものです。
被相続人が財産1億2000万円(債務と葬式費用を控除後)を残して死亡した。遺産分割の結果、配偶者が6000万円、長男が2400円、長女が1800万円、次男が1800万円を取得した。
この場合、各相続人の相続税額はいくらになるでしょうか。以下、具体的に計算をしていきます。
1.第1段階 課税価格の計算
課税価格とは、相続財産の価格をいいます。本件では、遺産から債務と葬式費用を控除した財産1億2000万円(配偶者:6000万円+長男:2400万円+長女:1800万円+次男:1800万円=1億2000万円)が課税価格となります。
2.第2段階 相続税の総額の計算
(1)遺産にかかる基礎控除額
相続税は、基礎控除を超える場合に、基礎控除を超えた額につき課税される。現行法上の基礎控除の計算は次のとおりです。
3000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除額
これを本件に当てはめると、民法上、法定相続人は配偶者、長男、長女、次男の4名ですから、
3000万円+(600万円×4)=5400万円
となります。
(2)課税遺産総額
課税対象となる遺産の総額は、課税価格から基礎控除額を引いた額となります。
すなわち、本件における課税対象となる遺産の総額は以下のとおりになります。
1億2000万円-5400万円=6600万円
(3)相続税額の総額の計算
課税対象となる6600万円を基に、次は、課税される相続税の総額を計算します。ここでの計算は、民法の規定に従った場合の法定相続分を前提に計算します。これを法定相続分課税方式といいます。
各相続人の民法の規定(民法900条)の相続分、すなわち、配偶者1/2、子ら1/2に応ずる取得金額は次のとおりになります。
配偶者 6600万円×1/2=3300万円
各子 6600万円×1/2×1/3=1100万円
これに、相続税の速算票の相続税率を適用して計算した相続税額は次のとおりになります。
配偶者 3300万円×20%-200万円=460万円
各子 1100万円×15%-50万円=115万円
したがって、相続税の総額は、460万円+115万円×3人=805万円となります。
3.第3段階 各人の相続税額の計算
第2段階により、本件に課される相続税額の総額が算出できました。次は、実際の遺産分割により取得した割合を基に、各相続人に課されるべき相続税額を計算することになります。
(1)相続税の案分割合
まずは、以下のようにして、各相続人の案分割合を計算します。
(相続人) (課税価格) (課税価格の合計額)(案分割合)
配偶者 6000万円 ÷ 1億2000万円 =0.50
長男 2400万円 ÷ 1億2000万円 =0.20
長女 1800万円 ÷ 1億2000万円 =0.15
次男 1800万円 ÷ 1億2000万円 =0.15
案分の合計 1.00
(2)各相続人等の相続税額
そして、第2段階で算出した相続税額の総額に各相続人の案分割合を掛けて、各相続人の相続税額を計算すると、以下のようになります。
(相続人) (相続税の総額) (案分割合)(各相続人等の相続税額)
配偶者 805万円 × 0.50 =402万5000円
長男 805万円 × 0.20 =161万0000円
長女 805万円 × 0.15 =120万7500円
次男 805万円 × 0.15 =120万7500円
4.第4段階 各人の納付税額の計算
第3段階までで、各相続人の相続税が算出されましたが、特別な控除によって、これと実際に納付する額が異なる場合があります。本件では配偶者控除が問題となります。
配偶者については、配偶者の課税価格が1億6000万円を超えない限り、相続税がかかりません。
本件相続人のうち、配偶者の課税価格は6000万円であり、これは1億6000万円以下であるので、実際には納付する必要がないことになります。
当然、被相続人の配偶者ではない他の相続人(長男、長女、次男)は納付する必要があります。
Ⅲ.結び
今回は、日本の相続税の計算方法を具体例に即して紹介しました。理解を深めていただけたでしょうか。
次回は、事例を変え、渉外相続の具体例を挙げて、相続税の計算方法を紹介します。
(以 上)(以 上)