国際相続課税-相続税
Ⅰ.はじめに
今回の記事では、前回に引き続き、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係について、特に問題となる日本の相続税法上の問題の前提として、日本の相続税の計算方法について紹介したい。
Ⅱ.相続税-法定相続分課税方式に基づく計算の仕組
我が国の相続税の課税は具体的には次のように行う。
まず個々の相続人が実際に取得した財産(資産から負債を控除した額)を合計する。次に、この合計額から基礎控除額を控除した課税遺産の総額を、相続人の法定相続分に応じて、各相続人の相続税額を算定し、合計する。この合計した相続税の額を、各相続人が実際に取得した財産の、相続財産全体の割合に応じて配分することによって、実際の相続税額を算出する。
このように、実際の相続税額の算出の前に、法定相続分によって相続税額を算出することによって、相続人間の仮装の遺産分割による相続税の回避を未然に防止している(結果として、下記のような複雑な計算を要する。)。
1.第1段階:課税価格の計算
まず相続により財産を取得した者に係る課税価格(各人の課税価格)を個々に計算し、その後、同一の被相続人から相続により財産を取得した全ての者の相続税の課税価格の合計額を計算する。
課税価格の算定に当たっては、個々の相続人が取得した資産から、承継した負債を控除すること等によって計算する。
上記のように、相続税の課税価格は、遺産の総額を基に相続人毎に計算する。したがって相続が単独相続であれば簡単であるが、相続人が2人以上いる場合には、共同相続人のうち、誰がどの財産を相続するかが明確にならないと、課税価格が計算できない。そこで、相続税の申告書の提出期限までに遺産の全部または共同相続人によって分割されていない場合には、その分割されていない財産は、民法の規定による相続分(民法900条等)に従って取得したものとして課税価格を計算することとされている(相続税法55条)。
2.第2段階:相続税の総額の計算
相続税の総額とは、同一の被相続人から相続により財産を取得した全ての者に係る相続税の税額である。
相続税の総額の計算方法は次のとおりである。
まず被相続人から相続により財産を取得した者の課税価格の合計額から、遺産に係る基礎控除額を控除した残額(課税遺産総額)を計算する。
ここに、遺産に係る基礎控除額とは、次のように計算する。
遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
この課税遺産総額を「法定相続人の数」に応じた「法定相続分」により取得したものとして案分した各取得金額を計算する。
ここに法定相続分とは、民法900条など民法で定める法定相続分を指す(相続税法16条)。
この各取得金額に、「相続税の超過累進税率」を乗じた計算した金額を合計して、「相続税の総額」を計算する。
このように名目的な相続税の総額をいったん計算することにより、恣意的な遺産分割による相続税の回避を防止し得る。
3.第3段階:各人の相続(算出)税額の計算
相続税の総額を各人が取得した財産の額(割合)に応じて配分し、各人の相続(算出)税額を計算する。
相続(算出税額)は、次の算式によって計算する。
相続税の総額 × 各相続人の課税価格/ 課税価格の合計額(あん分割合)
4.第4段階:各人の納付税額の計算
各人の算出額から各人に応じた各種の税額控除を控除し、各人の納付すべき税額を計算する。
ここで重要なものとして、いわゆる配偶者控除と外国税額控除が挙げられる。
被相続人の配偶者については、その課税価格が、課税価格の合計額のうち配偶者に係る法定相続分相当額である場合、または1億6000万円以下である場合には、税額控除によって納付すべき相続税額が算出されない(相続税法19条の二第1項)
相続により、法施行地外にある財産を取得した場合において、その財産に対して外国の法令により我が国の相続税に相当する税が課された時には、その課された相続税に相当する金額は、その者の算出税額から控除される(相続税法20条の二)。
いわゆる国際二重課税の緩和措置である。
要件としては、①相続により財産を取得したこと、②取得した財産は、法施行地外に所在するものであること、③取得した財産について、その財産の所在地国において相続税に相当する税が課税されたこと、である。
Ⅲ.結び
今回は、日本の相続税の具体的な計算方法を紹介した。相続税に限らず、税金の計算方法は複雑なため、一読されただけでは理解しがたいであろう。
そこで、次回以降では、具体例を挙げて、相続税の計算方法を紹介したい。
(以 上)