第3回
Ⅰ.はじめに
国際相続の問題は、移民や国際結婚の増加に伴い、必然的に増加している。国際相続は、国際私法の問題のみならず、日本と諸外国の登記制度等の差や租税法の問題が複雑に絡み合い、非常に難しい法的手続が必要になる。
本稿では、前回の記事で検討した内容を前提に、相続に関するケベック州法の規定について検討する。
Ⅱ.ケベック州法からの反到
カナダの各州の中で、ケベック州は特別な州であり、もともとはフランスの植民地であったことなどから、カナダの中で唯一フランス語のみを公用語と氏、英語を話すことができない住民も少なくない。しかし相続法は英国のコモン・ローの影響のもとに動産と不動産の準拠法を分けて、動産については被相続人の最後の所在地法、不動産については不動産の所在地法によるとしている(ケベック州民法3098条)。
通則法36条の「相続は、被相続人の本国法による」という規定にいわゆる「本国法」としてケベック州民法3098条を含むとすれば、日本の通則法条いったんはケベック州法が指定されたものの、ケベック州法の適用によって、不動産の相続に関する限り、日本の民法が適用され、日本の民法によって共同相続人の相続分が定まることになる。
このように適用される法律が日本と外国の間を行き来きする国際私法の特有の取り扱いを反到と呼んでいる(通則法41条)。
仮に被相続人(日本からカナダのケベック州に移住し、同地で亡くなった方)の財産のうち、動産はケベック州に、不動産は日本にあり、相続人が被相続人の配偶者と子であった場合、動産については被相続人の最後の住所地であるケベック州の民法に基づき、配偶者が三分の一、子が三分の2を相続し、日本にある不動産については日本の民法(900条1号)に基づき、配偶者及び子がそれぞれ二分の一の持分で相続することになる。
このように被相続人の遺産のうち、動産と不動産について別の法理により相続分が定まることを遺産の分裂と呼ぶことがある。
次回は、実際に遺産の分裂が認められたケースについて日本の判例を紹介する。
以上