第2回
Ⅰ.はじめに
国際相続の問題は、移民や国際結婚の増加に伴い、必然的に増加している。国際相続は、国際私法の問題のみならず、日本と諸外国の登記制度等の差や租税法の問題が複雑に絡み合い、非常に難しい法的手続が必要になる。
本稿では、前回の記事で検討した内容を前提に、具体的な相続手続を進める上で、アメリカ合衆国やカナダのように連邦制の国家の場合、被相続人の国籍法であるアメリカ法やカナダ法によって相続分が定まるのか、それとも本件のように被相続人が移住後、国籍を取得し、亡くなるまでの間長年に渡り居住されていたケベック州の法律によるのか、について検討する。
Ⅱ.相続の準拠法(不統一法国法の指定)
本件の場合においても、カナダに在住の共同相続人が、日本に在住の共同相続人と争う場合、日本の国際私法(法適用の通則法)を適用して相続分を決定することになる。
通則法36条は、「相続は、被相続人の本国法による。」と規定している。本国法、すなわち、死亡時の国籍国が準拠法となるのである。
もっとも、国によっては、アメリカやカナダのように、地域(州)によって法制度の異なる国が存在する。例えば、通則法36条によりカナダ法が準拠法となると仮定した場合、カナダは州ごとに法律が異なる。いわゆる不統一法国である。このような場合、いずれの州の法律を準拠法とすべきか。
この点について、通則法38条3項は「当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。」と規定する。この規定により、カナダに当該規則があればそれに従い、それがなければ本件の事実関係の下において当事者に最も密接な関係がある地域の法が準拠法となる。
この点に関する裁判例(審判例)として、青森家裁十和田支部平成20年3月28日審判では、アメリカには適用法を統一して指定する規則がないと認められるから、当事者に最も密接な関係がある地域の法が、その本国法になると解すべきとしている。そして、X1については、「その出生地こそテネシー州ではないものの、同州内の高校を卒業し、同州出身のX2と同州内で婚姻し、同州内での○○学校も卒業して同州内で□□としての資格を得、X1自身も同州法を自身の本国法として本件申立てを行っている」ことから、X2については、「テネシー州で出生し、同州内の高校を卒業し、同州内でX1婚姻し、現在も実母や兄、妹は同州内に居住しており、X2自身が同州法を自身の本国法として本件申立てを行っている」ことから、テネシー州法を最も密接な関係がある地域の法とした。なお、本件のX1とX2は、米国籍ながら日本に居住し、「無期限で同書での生活を続けるつもりであって、アメリカに帰国する予定はないとして、住所(そこを本拠地〔home〕とする意思〔永住意思〕をもって居住する地域)たるドミサイル(domicile)は、日本国内にあると認められる。」としている。
上記青森家裁十和田支部平成20年3月28日審判の考え方に従えば、例えば、被相続人であるAとBが例えばカナダのケベック州での居住経験しかないとすると、カナダ国内で最も密接な関係がある地域の法はケベック州法となると考えられる。
それではケベック州法は相続について、どのように来ているのであろうか。次回は、相続に関するケベック州法の規定について検討する。
以上