国際相続と農地法
2016.9.29
Ⅰ.はじめに
国際結婚が激増している今日、必然的に国境を跨ぐ相続の問題も激増している。たとえば、国籍が異なる男女が結婚をし、互いの国に不動産を複数所有しているということはままあることである。
国際相続の場合に、日本の不動産を有する者が被相続人であるとき、当該不動産の相続関係は、日本法が準拠法となることが多い。これは、法の適法に関する通則法(以下、「通則法」という)32条が、「相続は、被相続人の本国法による」と規定しているものの、当該本国法では、不動産相続の準拠法は不動産の所在地の法によると規定されていることが多いからである。アメリカやカナダなどではこのように規定されている。
また、相続以外の不動産の権利関係については、通則法13条により不動産の所在地法が準拠法になる旨規定している。そのため、相続の登記をする場合でも、登記手続に関しては日本法に従うことになり、また、日本の不動産を相続した相続人が、当該不動産が不要であるために日本人に対し当該不動産を譲渡する場合には、専ら日本法に従うことになる。
そこで日本法に目を向けると、土地に関し、日本の農業保護のため、農地法という法律が存在する。日本では農地法が存在することから、所有権等の権利の譲渡等に規制がかかり、簡単に農地を処分できない。
以下では、国際相続に関し、農地法の規制を紹介する。
Ⅱ.農地法の規制
1.概要
農地法には土地の譲渡等に制限がかかっているおり、農業委員会等の許可を得なければ、譲渡等が認められない。これを怠れば、罰則や、登記手続ができないということになる。
もっとも、相続の場合には許可を得る必要はなく、取得につき届出が必要となる。
2.権利移転及び転用の制限等
農地法は、「国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的」(農地法1条)としている。
そのため、農地の譲渡や転用には原則として、農業委員会又は都道府県知事の許可が必要となっている。
(1)権利移転の制限
農地法3条1項は、農地を他者に譲渡したり、地上権や賃借権等を設定したりする場合には、農業委員会の許可を受けなければならないとしている。これに違反した場合、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる(農地法64条)。
もっとも、相続により土地を取得する場合には、同条にいう権利の移動には当たらないと解されているため、許可を得る必要はない。
ただし、許可なく農地を取得した場合、管轄の農地委員会に農地を取得したことを届け出る必要がある(農地法3条の3第1項)。これは、平成21年12月15日改正により追加されたが、届出が不要であったことにより耕作放棄地や遊休地となると農地が出てしまったという背景があった。これを怠る又は虚偽の届出をした場合には、10万円以下の過料に処せられる(農地法69条)。
(2)転用の制限
農地法4条1項は、農地を農地以外のものに利用する場合、都道府県知事等の許可を受けなければならないとしている。なお、申請書の提出は農業委員会を経由して行う(同条2項)。
また、農地法5条1項は、農地を農地以外のものに利用するために、他者へ譲渡等する場合には、都道府県知事等の許可を受けなければならないとしている。これは農地法3条と4条の併せた規制となっている。
これらに違反した場合、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる(農地法64条)。
Ⅲ.結び
以上のように、国際相続の際に、日本の農地が存在する場合には、農地法の規制に注意をしなければならない。農地法の規制は、違反すれば罰則や、登記手続ができないという事態が生じる。
そのため、この場合には、国際相続分野及び農地法に詳しい法律の専門家に相談する必要性が高いといえよう。
以 上