中国における外資企業による土地の権利取得
-モンゴル法との比較-
Ⅰ.事案の概要
日本の医療関連企業(以下、「日本企業」という。)が、中国に進出し、中国で日本式の医療を提供することを検討している。
具体的には、現地の病院(以下、「パートナー」という。)と組んで合弁会社(以下、「JVC」という。)を設立する。パートナーが土地(以下、「本件土地」という。)の権利を取得してJVCに現物出資し、日本企業は当該土地の上に建物(以下、「本件建物」という。)を建設し、JVCに現物出資することを考えている。出資割合は50:50である。こうして設立したJVCは、パートナーに本件建物を賃貸し、医療機器等の販売、医療スタッフ派遣その他関連する事業を行う。
以上の事実関係において、JVCの土地に対する権利取得に関し、中国法上問題はないか。
Ⅱ.問題の所在
中国は、憲法上、土地は国有又は農村等の集団所有に属し、個人や企業がその所有権を取得することはできない。その代わりに、土地の使用権という権利が、物権として存在している。そのため、JVCが何か事業を行う場合、土地使用権を取得して、施設建設を行うこととなる。
そこで、まず、土地使用権とはどのような権利かを明らかにする必要がある。次に、JVCが土地使用権を取得する前提としては、2つの問題がある。すなわち、パートナーは、どのような方法で土地使用権を取得することができるか、また、取得した土地使用権をJVCに対して譲渡できるのか、が問題となる。
なお、中国と同じように、土地が国有である隣国モンゴルの法律の下で、土地に対する権利がどのように規定され、JVCはいかなる権利を取得できるのか、についても触れ、両国の法制度の理解を深めたい。
Ⅲ.結論の要旨
土地使用権とは、土地を占有、使用及び収益し、土地上の建物を利用することができる権利である。国有土地につき工業用地や商業用地として使用できる払下土地使用権と公益目的のために使用できる割当土地使用権があり、集団所有土地につき集団土地使用権がある。
パートナーが土地使用権を取得する方法として、払下と譲渡による方法がある。また、パートナーが取得した土地使用権は、JVCに対して現物出資をすることが可能である。
なお、モンゴル法では、土地占有権と土地利用権があり、JVCは5年の期間制限のある土地利用権しか取得することができない。ただし、更新は可能である。
Ⅳ.検討
1.モンゴル法の場合
まず、モンゴル法の検討においては、上記Ⅱの事案の概要のうち本件土地の「権利」を土地占有権と読み替えて、以下検討する。
(1)外国投資企業とは
合弁企業としての外国投資企業とは、モンゴル国の法令に従って設立され、法人が発行した全株式の25%以上を外国投資家が所有しており、各外国投資家が投資した金額が10万米ドル以上又はこれに相当するトゥグルグの企業をいう(投資法3条1項5号[1])。
本件では、外国投資家である日本企業がJVCの50%の株式を取得する。また、病院としての建物を建設しそれを現物出資するのであるから、10万米ドル以上又はこれに相当するトゥグルグという要件も満たす可能性が極めて高い。ここではこの要件を満たすことを前提とする。
したがって、JVCは外国投資企業に該当する。
(2)外国投資企業に認められる土地に対する権利
まず、18歳以上のモンゴル国民やモンゴル企業・組織は、土地占有権又は土地利用権を取得することができる(土地法6条1項)。
これに対し、外国投資企業には、土地利用権の取得が認められている(土地法6条3項)。土地法には明示的に土地占有権の取得ができないとは定められていないものの、モンゴル国民等には土地占有権まで認めることを明示しているのに対し、外国投資企業には土地利用権しかあえて認めていないことから、土地法6条3項は、土地利用権の取得のみを認めたと解釈されている。
したがって、JVCは、本件土地に関し、土地利用権を取得しうるのみである。
(3)外国投資企業に対する土地占有権の譲渡
外国投資企業は土地利用権しか取得することはできない。
しかし、モンゴル人弁護士によれば、パートナーは、JVCに対して、パートナーが取得した本件土地占有権をJVCに対して譲渡することが可能である。これは、具体的には以下のようになる。
土地法6条3項の通り、JVCは土地占有権を取得することはできないため、結果として土地利用権を取得することとなる。この際、JVCは、モンゴルの土地を管轄する当局と新たな土地利用権を締結し、土地利用権の期間を従前の土地占有権の期間より延長することとなる。また、モンゴルでは、登記は効力要件であるところ(民法110条参照)、登記申請の際に、土地利用権として登記して当該土地利用権を取得することとなる。
したがって、パートナーは、本件土地占有権をJVCに対して譲渡することができるが、JVCは当局と新たに契約を締結し、本件土地利用権として登記して同権利を取得することとなる。
(4)土地利用権の権利の内容
土地利用権とは、法の許す範囲内で土地の所有者又は占有者と結んだ契約の定めに従って、土地の自分にとって有利なある性質を引き出して利用すること[2]をいう(土地法3条1項4号)。土地利用権の期間は、5年まで定めることができ、更新もできるが、一度に5年までとされている(土地法44条6項)。
これに対し、投資法では、契約に基づき、最長60年間利用させることができ、一度だけ40年間まで延長することできることとされた(投資法12条1項1号)。しかし、投資法12条2項により、土地法その他の関連法令により調整して初めて効力が生ずると解されている。
このように、投資法により投資家の保護を図ったにも関わらず、土地法の改正が未だなされないままになっていることから、従前の土地法に従い5年という期間制限がかかったままとなっている。
したがって、JVCは本件土地利用権を取得しても、最長5年という期間制限にかかり、更新も一度に5年まで可能である。なお、モンゴル人弁護士によれば、JVCが本件建物の所有する限り、期間は延長されるとのことである。
(5)小括
以上からすると、パートナーは、土地占有権又は利用権を取得し、JVCに現物出資することが可能であり、いずれにせよ、JVCは土地利用権を取得することとなる。また、土地上の建物の所有権を有する場合、土地利用権を更新することができる。
2.中国法の概観-土地の権利について
(1)所有権と土地使用権
中国法では、憲法により、土地所有権は個人が取得できない旨記載されている。すなわち、都市の土地は国家の所有に属し(憲法10条1項)、農村及び都市郊外地区の土地は法律で国家の所有と定められたものを除き、集団の所有に属する(憲法10条2項)と定められている。また、2007年の物権法により、同様の規定が置かれている(物権法47条)。
このように、中国の土地は国又は集団(農民集団)しか所有できないが、所有者は、土地使用権を個人や会社に使用させることが認められている(土地管理法[3]9条)。
土地使用権は、物権法にも建設用地使用権、宅地使用権として定められているため、債権ではなく物権である。建設用地使用権とは、法に基づき国家が所有する土地に対して、占有、使用及び収益の権利を享有し、当該地の建造物・建築物、構造物及びその付属施設を利用する権利(物権法135条)である。集団所有土地を建設用地とする場合には土地管理法などの法律の規定に照らして扱わなければならない(物権法151条)。宅地使用権とは、法に基づき集団所有の土地に対して、占有と使用の権利を享有し、法に基づき当該地の建造住宅及びその付属施設を利用する権利(物権法152条)である。
(2)土地使用権の種類[4]
A 国家所有土地使用権
国家所有の土地については、払下土地使用権と割当土地使用権がある(物権法137条1項)。
a 払下土地使用権
払下土地使用権とは、国家により一定期間を定めて土地使用者に払い下げられ、土地使用者が国家に対して払下金を支払うことにより取得する土地使用権である(都市不動産管理法[5]8条)。
外国企業が中国において土地使用権を取得するのは、①生産企業が工場建設のために土地使用権を取得する場合、②商業企業が商業施設を建設するために土地使用権を取得する場合、のいずれかが多い。①については、対象土地は工業用地となり、最長使用期間は50年で、②については、対象土地は商業用地となり、最長使用期間は40年となる[6]。
更新は、1年前までに申請する必要があり(都市不動産管理法2条)また、契約の再締結が必要となる。
b 割当土地使用権
割当土地使用権とは、割当方式によって取得する土地使用権である。
割当が認められるのは、①国家機関の用地、軍用地、②都市インフラ用地及び公共事業用地、③国が重点的に支援するエネルギー、交通、水利等のプロジェクト用地等の公益的な性質を有する使用形態(都市不動産管理法23条)である。
割当土地使用権に対しては、公益的な性質により、土地使用の対価を支払う必要がない。また、法に例外ある場合を除き(都市不動産管理法39条)、当該土地使用権を譲渡し、賃貸し、又は抵当権を設定することはできず、使用期間制限もない。
B 集団所有土地使用権
集団所有土地使用権とは、各農村にある経済組織に属する農民が、法律に基づいて共同で所有する集団所有地を占有し、使用し、その土地からの収益をあげる権利をいう。
集団所有土地使用権は、払下、譲渡、又は非農業建設用への賃貸が禁止されている(土地管理法63条)。そのため、集団所有土地使用権の払下、譲渡等の必要がある場合には、国家による収用手続を経て、国有土地に転換し、その国有土地の土地使用権について払下げを受けることとなる。
したがって、例えば、外国企業が、集団所有地の土地使用権を取得して工場を建設するような場合には、まず国家の収用手続を通じてその集団所有地を国有土地に転換し、その後、払下方式により当該国有土地の使用権を取得することとなる。もっとも、農業用地は、収用に先立って農業用地から建設用地への転換手続が必要となる(土地管理法45条3項)。
3.土地使用権の取得方法[7]
外国企業を設立して土地使用権を取得する場合、①払下方式により土地使用権を取得する方法、②譲渡により土地使用権を取得する方法、③現物出資により土地使用権を取得する方法がある。なお、土地使用権は、書面により設定契約をし(物権法138条)、登記時に成立する(物権法139条)。
(1)払下方式により土地使用権を取得する方法
払下方式によれば、自由に譲渡等の処分をすることができることから、この方法によることが一般的と思われる。なお、集団所有土地については、払下が禁止されているため、まず収用手続を経て国有土地に転換した上で、払下により取得することとなる。
(2)譲渡により土地使用権を取得する方法
既に多くの土地が払下により土地使用権を取得されていることもあるため、払下により取得された土地使用権の譲渡を受けることもある。外国企業であっても、土地使用権者から土地使用権を取得することが認められている(払下譲渡暫定条例[8]19条)。
ただし、譲渡の条件が定められている(都市不動産法38条)。①原土地使用者が、土地使用権払下契約の約定に従い、土地使用権払下金を全額納付し、かつ土地使用権証を取得していること、②原土地使用者が、払下契約に従い、投資・開発行為を行っており、建物建設工事について開発投資総額の25%以上が完成していること、③不動産を譲渡する場合において、建物が既に完成しているときは、さらに建物所有権証を保有していること、という条件である。
土地使用権の譲渡は書面によることが必要で、原土地使用者が払下で取得した旨を明記する必要がある。期間は、原払下契約の期間から、既に使用した期間を差し引いた期間となる。
外国企業が、譲渡により土地使用権を取得する場合、その地上の建築物、その他の定着物の所有権は、土地使用権の譲渡に伴って移転する。そして、土地使用者が地上建築物その他の定着物の所有権を譲渡する場合は、その使用範囲内の土地使用権も、これに伴って移転することになる[9]。ただし、動産として譲渡する場合は除外される(払下譲渡暫定条例23、24条)。
(3)現物出資により土地使用権を取得する方法
合弁企業を設立する場合、中国側パートナーは、土地使用権を合弁企業に現物出資することが認められている(中外合資経営企業法実施条例45条)。そのため、中国に進出する日本企業が、中国企業と合弁企業を設立して工場等を建設することを検討している場合には、中国側パートナーに土地使用権を現物出資させて土地使用権を取得することも考えられる。
4.土地使用権に関する注意点[10]
(1)土地使用権の有償払下げ・譲渡を受ける際の留意点
契約相手が国有地使用権の譲渡契約を締結する権利を有する者であるかどうかの確認が第一となる。基本的には外国企業と国(県級以上の人民政府土地管理部門)との間で有償の国有土地使用権払下げ契約を結び土地使用権を取得することとなる。契約当事者になれない郷(町)レベルの相手とこの土地使用権譲渡契約をしたために、契約自体が無効になった例もある。また土地使用権を持っている企業からの使用権の再譲渡を受ける際には、関係機関での確認と関係証拠書類の入手などが必要となる。
留意点としては、もし土地使用権自体に瑕疵がある場合にも、移転・立退きが発生する可能性がある(例えば、土地使用権上に抵当権が設定されており、債権者が抵当権を行使し、土地使用権を競売に出した場合などで、この場合、土地使用権を賃借している日系企業は移転することになると思われる)。このため、土地使用権の有償払下げ・譲渡を受ける前に、関係調査作業をしっかりと行っておく必要がある。
(2)中国企業と合弁会社を設立し、中国側が土地を出資する場合の留意点
合弁会社を設立する場合に、中国側企業が土地を現物出資するケースがある。この場合には現物出資対象の土地が国家より有償土地使用権譲渡を受けた、または前の土地使用権者から有償で譲り受けたものであれば通常、問題がない。しかし、合弁相手の国有企業や元国有企業の出資する土地が割当てにより土地使用権を入手した土地であれば、会社の設立前に土地使用権の有償譲渡の手続きをさせる必要がある。これは土地管理部門で確認を行う必要がある。
(3)中国で移転や立退きをする場合の留意点
中国で移転や立退きをせざるを得なくなった場合には、代替地の問題、移転費用の補償問題などの多くの複雑な問題や手続きが発生する。さらには多くの中国の関係機関と煩雑な長期にわたる交渉・手続きが必要となるため、工場立地などに関する土地の調査、使用権譲渡契約および登記などの手続きの詳細は、土地問題を専門とする弁護士やコンサルタントへ相談すべきである。
5.本件の事案分析
本件は、抽象的な事案を設定しているため、JVCが土地使用権を取得する方法としてはいくつか考えられる。まず、本件では、パートナーが土地を取得して、JVCに現物出資する(上記Ⅴ、3、(3)の方法)。パートナーが土地を取得する方法として、払下により土地使用権を取得する方法(上記Ⅴ、3、(1)の方法)又は、譲渡により土地使用権を取得する方法(上記Ⅴ、3、(2)の方法)の2つが考えられる。
払下により土地使用権を取得する方法の場合には、対象となる土地が集団所有であれば、農業用地であれば、まずは建設用地への転換手続をした上で、収用手続を通じて国有土地へ転換をすることになる(上記Ⅴ、2、(2)、B参照)。
このような手続を経る際には、中国人弁護士??