遺産相続をすることになったら、まずは相続財産はいったい何がどれくらいあるのか調べて確定させなければなりません。そして相続財産が確定したら、遺産分割をすることになります。特に遺言書がない場合には、相続人同士で協議をして遺産分割することになりますが、話がまとまらないようなら法律に基づいた分割の仕方で法定相続します。でも、もし故人(被相続人)が遺言書を残していれば、遺言書に基づいて遺産分割をすることとなります。
さて、遺言書がある場合、相続人は必ず遺言書どおりに相続しなければいけないものなのでしょうか?相続人同士で「こんな風に相続したいね」と話し合っていたとしても、遺言書が優先されるものなのでしょうか?
あるところに仲の良い3人の兄妹がいました。長男と長女は、結婚して子供もいて家も持っていました。次女は未婚で、ずっと親と同居していました。親の家には次女が住んでいるわけですし、長男と長女は、家は次女が相続すればよいと考えていました。ずっと次女が親と同居してくれていたからこそ、長男と長女は安心して自分たちの生活を送ることができたので、2人とも次女にはとても感謝していたのです。次女が相続した後はそのまま住んでくれてもいいし、売却したお金で新居を買ってくれてもいいとさえ思っていたのです。次女もそのことを喜んでいて、それならばお仏壇やお墓の面倒は自分がみると申し出ていて、相続人3人の間では円満に話し合いが済んでいたのです。
ところが、遺言書が残されており、家は長男が相続してお墓を守ること、長女と次女は2人で預金を分けるようにとの内容でした。しかし、長男にはすでに自分の持ち家がありますし、これでは次女は突然住む家をなくしてしまいます。親としては、家は長男が継ぐものだという信念を持ち、次女は早く嫁に行って幸せになってほしいと考えていたようです。その上でこのような遺言書を残したものだと思われますが、生きている相続人同士の円満な遺産分割協議よりも、親の遺言書を優先しなければいけないものなのでしょうか?
答えは、NOです。遺言書があったとしても、相続人全員で遺産分割協議をして相続人全員の合意が得られれば、遺言内容とは違う遺産分割をしてもよいのです。合意が得られなければ、もちろん遺言書が有効となりますが、こんなに円満でしあわせな遺産分割協議を否定する必要など、どこにもありません。