自分で頭を悩ませるより、法の定めに従ってみる
人生の夕暮れが近づいてくると、あとに残る子供たちへの遺産相続が気になり始めるものです。不平等が起きないように何か手を打っておかねばと考えがちですが、平等な相続を目指すなら、むしろ何もしないほうが得策かもしれません。民法で決められた分け方があり、生まれ順も男女も分け隔てなく、すべての子供に平等に取り分が渡るよう定められています。これを法定相続といいます。なまじ「誰に、何を、どれだけ」などと遺言を残してしまうと、それぞれの資産の時価や相場の変動などにより不平等をきたしてしまう可能性があります。また、残された方々の「私は××が欲しい」という意思に適合するかどうかも分かりません。
誰が法定相続人になりえるのか
民法で定められた相続人すなわち法定相続人になれるのは、まず配偶者(このケースではお母様)、次に子供です。不幸にして子に先立たれていれば、孫がなります。子も孫もいなければ、上の世代、つまりあなたから見て祖父母に権利が行きます。さらに祖父母も居なければ、お父様の兄弟すなわちあなたから見て叔父叔母(伯父伯母)が権利を持つことになります。しかし、少なくともあなたがご存命である限り、あなたのお子さんも祖父母も叔父叔母(伯父伯母)も、法定相続人になることはありえません。あなたとあなたの兄弟姉妹とお母様とだけが、相続人になるわけです。
法定相続人それぞれの取り分とは
法定相続人の中でも配偶者は極めて立場が強く、全遺産の1/2をもらう権利があります。しかもこの範囲内であれば、相続税は免除されます。100億円を遺してご主人が亡くなると、税金のかからない50億円丸ごとが未亡人のものとなるわけです。功成り名を遂げた独身男性が、死に際にお世話になった女性との婚姻届を提出するエピソードは、これに基づいた動機が働いていることも多いのかもしれません。残りの1/2を子供たちの人数で均等に頭割りします。2人なら全遺産の1/4ずつ、3人なら全遺産の1/6ずつという計算です。生まれ順も性別も、分け隔てはありません。さらに死亡時点では奥さんのお腹に居た胎児も、法定相続人の頭数に入ります。
不動産も平等に、は難しい
民法は「どれだけ」相続するかを定めてはいますが、「何を」相続するかについては、規定していません。土地・建物、現金、有価証券など各種の資産のうち、誰がどれを相続するかは、相続人の間で話し合って決めることになります。現金や株は簡単に頭割りできますが、問題は不動産です。たとえば100m2の土地を未亡人50m2・子供それぞれ25m2などと分割して所有しても、使いようがありません。建物は事実上、分割不可能です。そこで、平等にこだわる相続の場合、それぞれが所定の持分を保有する共有名義にすることがよくありますが、これはこれで問題が多いものです。不動産の売買や運用には全員の承諾が必要となるため、誰かが反対したり行方不明になった場合、身動きが取れなくなります。また、各相続人が妻や子供にさらに権利を分割していった際、どこの誰が権利者なのか、収拾が着かなくなることもあります(空き家問題の一因にもなっています)。将来に禍根を残さないためには、相続が発生する前に関係者でよく話し合っておくこと、また弁護士など専門家に相談しておくことが望まれます。