不動産の売却と言った時、「権利」という視点で考えると、二つの権利が挙げらるのをご存じでしょうか?
一つは借地権で、もう一つは所有権です。
所有権者と借地権者の関係
すぐにイメージできると思いますが、もし所有権と借地権との両方を持っていれば、建物でも土地でも、自分の判断で自由に売買できます。
ただ、地主という所有権の持ち主が別にいる場合、そこまで自由に売却することは、やはりできません。
売却したい時には、地主さんの承諾が必要となりますので、売却にあたっては相談を経て、売却の承諾を得なければなりません。
このことは、以下のように法律でも定められています。
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
(民法612条より)
貸借人とは借地権者を指し、賃貸人とは地主=所有権者を指しています。
つまり、地主の承諾を得なければ売却することができない上に、もし勝手に売却してしまったら、借地権を取り上げられる、といったことが記載されています。
このような借地権の没収という事態になれば、借地権者にとっては大きな痛手となります。というのも、借地権を得るのに相当な対価を支払って得ている場合が多く、それが無に帰してしまうからです。
借地非訟という挽回手段
少し話は変わりますが、地主に借地権を売却するというケースも、よく見られる事実です。
こうなった場合は、借地権者、つまり売り主にとって不利な取引状況に陥ってしまうでしょう。
何せ、買い主自身である地主が首を縦に振らなければ売却することができないのですから、売却金額が地主の判断に大きく影響されることは、容易に想像できると思います。
では一方的に地主に有利にことが進んでしまうかと言うと、それも違います。
売り主がこの状況を挽回できる手段があります。
その手段は「借地非訟(しゃくちひしょう)」と言います。
これは地主に代わって裁判所が売却する承諾を借地人に与えるものです。
これによって、地主の思うがままの金額で売却させられることなく、より公正な取引を経て、金額を決定することが可能になります。
これも法律で以下のように根拠づけられています。
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
(借地借家法19条より)
今はそうでなくても、いずれ上記のように、借地権を自分が持っていて地主と争うことは十分に考えられるのではないでしょうか。
その時に地主に足元を見られないよう、借地非訟という手段のあることを頭に入れておくといいでしょう。