「IT化」、という言葉がなんら珍しくない、一般的な言語・現象になってきた昨今、国土交通省が一部の「不動産取引」にも「IT化」を図ろうとしているようです。
基本的に、不動産売買や賃貸契約を行う際は、宅地建築取引士が「重要事項説明書」に基づいた対面での説明が必要です。
重要事項の説明の中身は主に、「不動産権利関係」「不動産に係わった法令上規制・制限」「不動産の状態の詳細」「契約条件」の4項目。一項目ごとに説明しなければならない内容がある上、近年では消費者側も慎重になっていたり権利関係で揉めることもあるため、賃貸や売買での説明は「対面」で直接30分~2時間程度かけて説明が行われます。
国土交通省のHPでは、平成27年8月31日から、「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験(IT重説社会実験)」を実施しています。
「不動産重要事項のIT化」には、現段階では社会実験途中なので具体的な問題は不明確ですが
メリットもデメリットもあるでしょう。
予測されるメリット、デメリットを書いてみます。
メリットとしては業務の簡素化が行えるというコト。
そもそも、「引主任者による重要事項の説明」「宅地建物取引主任者の重要事項説明書への記名押印」が義務付けられたのは1971年改正の「宅地建物取引業法改正」であり40年以上大きな改正は行われていませんでした。現在では多くの契約情報がデータ上で取引されていますが、「不動産重要事項」の書面交付に関しては電子メールでの交付も不可。改正自体は当然というか遅すぎるくらいです。
必ず「直接、宅地建築取引士が対面」で行わなければならない、という訳ではなくなり、メールなどで一部書類を送付したり、Skypeなどでのテレビ電話の様な形式で行うということも可能になるようです。これで手間も時間も送付費用なども抑えられるでしょう。
政府としては、データ上で行われるため「ペーパレス化」や「ITのすそ野を広げる」といった目的もあるようです。
デメリットの方はトラブルが発生しやすくなる可能性がある、というコト。
「直接、専門家が時間をかけて対応する」というコトはトラブル防止でもあります。また、時間をかけて説明しても状況が把握されておらず後でトラブルになるというコトも珍しくない業界。
コスト削減のために説明を分厚いマニュアルを持ったアルバイトの方に任せる、といった企業も出てくるでしょう。ほかの業界では一般的な状態です。
ただ、不動産業界は少々違います。
例えば、「A」という家電を家電量販店でチェックしその場のパートの店員さんに説明を聞き、購入します。家電量販店で見たもの、ネットで見た性能の商品の「A」が届く場合がほとんどでしょう。それでも、不具合などがあればコールセンターへ電話し、説明を聞いて使い方を理解したり、問題があれば簡単に正しい仕様の「A」と交換してくれるでしょう。
しかし、不動産は一つ一つが違いますし、購入したり借りたりする人の認識も違います。一部の公開された写真や動画、情報などでは物件の全体は判断できませんし、周辺環境も重要と考える人も多いでしょう。
「お手軽」さが「情報の曖昧さ・不正確さ」を生みやすく、当然トラブルにもつながりやすい。特に不動産取引では。
また、一度使い方が理解できれば解決できる商品などとは違い、使い続けるコトで不具合が判明してしまう場合も。
法改正自体は必要なものです。
ただ、その背後にあるだろうトラブルに対しての法規制が無ければ、不動産売買・賃貸を行う人にとっての不利益が生じるというコトは想像に難しくないでしょう。「商売のチャンスと新規業者が多く入り過ぎて業界全体の不利益になった」という業界は少なくないのですから。
政府側も、提言を行っている業界側も慎重な議論を望みます。