■書名:「東京Deep案内」が選ぶ 首都圏住みたくない街
■著者:逢阪まさよし+東京Deep案内編集部
■出版:駒草出版
■定価:2200円+税
ダーク街歩きガイド本
街歩きがブームだ。表だってブームを牽引するのは、地形をもとに都市の成り立ちをひもとく「ブラタモリ」(NHK)。裏側のブームを牽引するのは、ドヤ街や外国人居住者の多い街をレポートするWEBサイト「東京Deep案内」だろう。
災害・紛争跡地など負の遺産を対象にした観光をダークツーリズムという。同サイトが扱うのは観光地では無く、我々が住む街のダークな面だ。風俗街を歩く、近づきたくない施設に入る、「ダーク街歩き」サイトともいえる。
そのサイトの情報を中心にまとめたものが、本著「『東京Deep案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」だ。500頁を超すボリュームのある本著は、タイトル通り住みたくない街の見極め方や、鉄道沿線別の特徴などで構成される。
DQN度や貧民度などの要素をもとに採点付けした、絶対住みたくない街(駅)ランキングが白眉。治安や不便さなどの一般的なネガティブ要素だけでなく、イメージ先行のオシャレシティを漏れなく腐しつつ、それぞれを7つのゾーンに大別している。
例えば(甘すぎて無理ゾーン)は、「浮かれポンチと上京カッペ鼻に付くリア充が闊歩する人多過ぎ」タウン。代表例として吉祥寺が上げられている。(紛争地帯過ぎて無理ゾーン)はそのものズバリ治安が悪い街で、町田が上げられている。こうして取り上げられる街には全て現地を歩いた上での、遠慮なしの解説が付いていて気持ちいい。
吉祥寺ならば、「これだけ不動産屋のマーケティングが旺盛でそれに乗せられている人々の多さに辟易するような街はない。」町田は「東京都内のDQN地域としての東西両横綱を決めるとしたら東はもちろん足立区だが、西はダントツで町田市なのである。」といった具合。
ここ数年でカルチャー系の雑誌御用達となった清澄白河に至っては(意識高すぎて無理ゾーン)として、「本来しょぼくれた寺町と墓場とアサリ丼を食わせる店くらいしか無かったはずなのに、地下鉄半蔵門線が延伸され渋谷直結となってオサレ菌が繁殖しだしたせいか、急激にシャレオツカフェが増殖する勘違いタウンに発展した(以下略)」と、そこまで書くかというくらい厳しすぎて、笑ってしまう。
サイト運営者で本著のメーン筆者の逢阪まさよし氏は、世間のイメージには左右されずに街ブランドの高低どちらにも等しく毒を吐く。それでいて、ただの毒舌にならないのは、貧民窟もオシャレタウンも、観察する目はフラットだからだろうか。そういった姿勢を反映してか、「身も蓋もないけど、言っていることは大体あってる」という賛同から、「酷い書き方しやがって」という怒りの声も両方寄せられるらしい。しかしながら、本著はネット検索の寄せ集め街ガイド記事の対局にあるダーク街歩き本として支持されるのは間違いない。
そして、同時に都市論もグルメもマーケティングも何もない、黒光りする街ガイドの奥義書が生まれたのかもしれない。