通常、不動産売買においては買主側から買付証明書、売主側から売渡承諾書等が交付されるが、これらの書面が交付されると契約は成立するのでしょうか?仮に契約が成立していない場合に、交渉を途中で打ち切ることはできるのでしょうか?

 

これまでの判例等では買付証明書や売渡承諾書を交付したのみでは、実務の取引慣行に照らして当事者の合意があったという判断には至らないとされています。売渡承諾書の性質について判例は「売買契約の交渉段階において、交渉を円滑にするため、その過程でまとまった取引条件の内容を文書化し明確化したもの」(東京地裁昭和59年12月12日判決)としており、あくまで交渉を円滑にするためのものにすぎないのであって、当事者の合意があったことを示すものとはならないのであります。

 

では、これらの書面の交付をしている段階で交渉を途中で打ち切ることは可能なのでしょうか?通常はこれらの書面が交付されている段階というのは契約内容もある程度決まっており、契約成立がある程度確実であると当事者は期待を寄せます。そのような期待を保護するためにも、契約準備交渉段階に入っている当事者の関係は何ら特別の関係のない当事者の関係よりも、相手方に損害を被らせないようにする義務を負い、その義務に違反して相手方に損害を生じさせた場合には責任を負うという見解が一般的となっております。

 

もちろん相手方が理解のある当事者でこちらの交渉打ち切りの理由に異議を申し立てない人であれば大きなトラブルとなることは無いでしょうが、通常であれば急きょ交渉を打ち切ることは誠実交渉義務違反(誠実に契約の成立に努めて対応する義務違反)となってしまうので、相手方に不意打ちとならないようにするために綿密に連絡を取っておくということが重要になると思います。契約が成立する前段階でも、損害賠償責任が生じる場合があるということは必ず頭に入れておくようにしましょう!

 
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